この街とも明後日でお別れだと思うと、つい感慨にふけってしまう。
毎朝1時間半、ラッシュアワーの電車との戦いの末たどり着くこの会社で、定年を迎えるのだ。
終身雇用という言葉がまだ生きていた時代に就職した。家のローンや子供たちの学費を考え、転職に踏み切ることなく我ながらよく頑張ってきたと思う。
退職後に自分の半生を自費出版する人たちを小ばかにしていた己を反省する。今ならその気持ちがわかる。何か偉大なことをなし遂げたわけではないが、困難を乗り越え完走した達成感が自負になっているのだ。
流行病に関しての外出制限がなくなったとはいえ、まさか部署の何人かで「ささやかな送別会」を開いてくれると聞かされた時は驚いた。俺なんかのために。
…嬉しいじゃないか。
最終日に妻をねぎらう花束の手配もしたし、このデスクの私物もあらかた持ち帰った。
明日の会議には俺は出ないと言ってある。これからの諸君にかかっている。頑張れよ。
この街の減ってしまったネオンともおさらばだ。
俺は今夜の送別会で、とことん飲むことにした。
お題「街」
6/11/2024, 10:47:03 PM