〈お題:誰も知らない秘密〉
この場を借りて、暴露してしまおう。
「僕は本を買って読むけれど、本棚はとても乱雑で時間が蓄積しているのが一目見てわかる」
知人は最初、本棚を見てとても驚く。
「もっと綺麗だと思ってた」…と。
本に敬意がないのか、…言い訳になると思っていたから隠そうと…今夜は隠し事は無しにしよう。そう、本棚は一時期とても綺麗に整頓していたんだ。あいうえお順で、その表がわかるように立て札まで立てて。
そうしているうちに、「本を読む」ことから「本を集める事」に目的が変わってしまった。
だから、あえて本を乱雑に置いてみた。
…すると「本への体裁」が無くなった。
元々古本屋が好きだったことも思い出した。
「誰も知らない秘密…?」
そう君が疑問に思うのも仕方がない。
だから、今から暴露します。
ふ、とした時に誰かに勧めた本を僕は覚えていないことが多いんだ。
一応全部読んではいるんだけれど…流し読みになっていた時期があまりにも長すぎた。
〈お題:Heart to Heart〉
気に食わない…そんなお題。
ぬぬ、しかし、お題に私的な文句を言うというのは良くないものか。
日本語の方が何倍も感じいることができただろうに。馴染みもない適正言語を使わないでほしい。しかし、それが安易に特別感を演出できるのかしら。
表現としてはgood。
「表現としても粗悪だな」
「そう思う己の質が低いのだ」
相反する感情。
これがお題を読んで感じた心の有り様である。
〈お題:永遠の花束〉
「枯れない花をください」
そんなものはない。そう言う言葉を躊躇う程度にはその客人は怪しげだった。
全身黒ずくめの男。
国民的人気のある服装とは程遠い安物感。
彼はじっと私を見て、しばらくして視線を外した。
「この僕の想いが枯れないそんな花が…」
彼の迷走は果たして永遠たるのか。
そんな疑問に突き動かされた私は…思わず尋ねていた。
「どんな想いなんですか?」
私の質問に彼は、口より先に目が答える。
「そ、それは…」
恋。或いは愛。彼は今、盲目なのだ。
薔薇一本で充分ではないか。なんてことを考えていると、彼の口が回り始めた。
「そう…この感情は偽りです」
はて、そんな風には見えなかったけれど、彼は自身の感情をそう評価しているらしい。
「なぜ…偽り?」
彼の安っぽい怪しさは今や貧乏人のそれにしか見えなくなっていた。
「えぇ…本当は興味も関心も向いていないんです」疑問が疑問を提示する「…?」
「思い返してください。アナタの日々の行動を」…数分前に初めて彼を見たのだ。日々の記憶には、居ない。そんなことを思い返させて何が狙いか。実はずっとそばにいたとか…。沸々と恐怖が胸に湧いてくる。
「君の思惑に従ってあるく道理はない」
すぅーと血の気が引いていく。知らない事で恨まれているのではないか。
「アナタが僕を人として見ていなかった。だからこそ、アナタの記憶にはない」
しかし、そこまで、…最低限、人を人として誰とでも接してきた私が彼を“人として認識できなくなる”まで人間扱いしていなかった…というのは無理のある話だ。
何より…「誰に向けた花ですか?」
こんな不安を感じながら質問していい内容ではないはずなのに、彼の視線の先にある花を見て嫌な事を考える。良い意味でみんなが贈り合う素敵な花なのだ。
「お前だよ」
間髪入れずの返答に、肩唾が喉に引っかかる。
「わ、私ですか!?で、でも、興味も関心もないって…」
こんな人から貰う花など嬉しくはない。
「そう言わずに、受け取ってください」
無造作に彼が手に取った花の束がカウンターに置かれる。彼が手にしたスイレンにギョッとする。
「…私に、ですか?」
会計を終えてその花束を抱えた彼が一本の睡蓮を私に投げ寄越して去っていた。
〈お題:やさしくしないで〉
信頼と信用をされると私は内心怖気付く。
身の程知らずな自分がそこにいて、期待に応えられない未来に苦しむ。
そんな確かな可能性に取り憑かれる。
失敗を肯定されると内心軽くなる。
期待されてなかったという思い込みが微かに生まれるからだ。天邪鬼な心に励ましの言葉は重い。
認識の甘さを痛感する。
私の無知が招いた結果である。本を読み漁る。
いわゆる乱読者である私の頭の中には本の内容はほとんど残っていない。言葉の意味を邪推するばかりか、その邪推を正解としてしまう脳内に辟易する。
優しさに甘えてばかりの精神から灰汁が滲み出る。そんな感覚が喉元に込み上げる。嗚咽。
「言葉を覚えた乳児に等しいと、そんな評価を」この腐った発言もまた灰汁の一つ。
なんたる不遇。その不遇を愚痴れば、多少なりとも同情を得られる。しかし、優しさが不遇を不遇たらしめる。辛い事を肯定される。
「そうだね、辛かったね」
「頑張ってきたんだね」
優しさが肯定である限り、私は癒えない。
なんと悲しき性だろう。
「えぇ、辛かったんです」
「とても頑張ってきました。もう限界です」
理性が必死に辛いと感情に訴えている。心は対して辛くはないのに。
さして何が辛いのか。
どんな事をどれ程の期間、何処まで頑張ったのか。具体的な言葉を用いず感情を肯定される。
それが心地よいのだから困ったものだ。
頑張ったフリをしても、辛いフリをしてみれば
こうして、信用と信頼を嘘で塗り固めることができるんだ。
メッキは光に当てられると剥がれる。
辛い事を面に引きずりだされるのを恐れるのは、抱えた苦痛が「程度の低いさして問題にならない…その程度のささくれのようなもの」。世間はささくれで済まないような大怪我で溢れているから、大袈裟に騒ぐ私に愛想を尽かしてしまうのではないか。そんな不安がついには大きな問題として心にズッシリとのしかかる。
僅かに求めた確かな「心の問題」に今度こそ私は全力で縋れる。
今度こそ私は癒えるのだ。
「とても辛いです」
〈お題:隠された手紙〉
手紙は誰かに届けるために書いている。
伝えたい相手に伝えたいことを書いている。
その為に色々言葉を尽くすけれど、溢れた感情が邪魔をする。惑わしてしまわぬように。
「お元気ですか」
定型分として必ず入るこの文言。
私がこの一言にどれだけの想いを込めているか、アナタはきっと気づかないでしょう。
「季節はまだ、去年の冬を引きずっていますけれど、アナタもきっと、去年を引きずっているのでしょう。私にはわかります」
こうしてアナタへの文章を書き始めるのだ。
「先日、嫌な想いや出来事を私宛に送ってくださった事を誇りに思います。」
この一文の目指す所はその解決である。されどその力が私には無いことを暗示している。
「私には遠い出来事ですから直接お力になれませんが…毒を吐き出せる場所として多少なりとも機能したなら幸です。結局その時は解決の糸口すら掴めませんでしたが、時間の経った今現在はどうでしょうか」
けれど残念ながら私の聞き方や姿勢では、産婆術的な会話はできなかった。
時間が解決する問題も多い。人間関係的な悩みも同様である。人の気持ちは移ろいやすい。
例えば、恋愛が顕著に示しているように。
時間が経てば自然消滅!ってこともある。
まぁ、そんな悠長になれるなら悩みもしないでしょう。
「相手に向き合ってばかりだと自分の道が見えないでしょうから、自分の心の赴くままに世界を見渡してはどうでしょう」
出会いも別れも春が来る。
季節が引きずっていた冬を春が終わらせるように。桜の如き儚さを胸に、独りの時間を噛み締めてください。その気持ちは次の出逢いを促してくれるでしょう。
「アナタは素敵な人ですから、心が温かい。心の冷えた人にとってはアナタから少々離れ難いのです」時には冷たくなってみたらどうでしょう。今のままだとアナタの心が冷え込んでしまう。
相手と同じ心の温度になる。っていうのは難しいに違いない。けれど、必要なのは相手の心を焦がすことではないのです。
「アナタの優しい心を、温暖に包み込んでくれる人を探しなさい。」
包んだ言葉に想いを託して、他は隠してしまいましょう。