『Good bay』
思い出はもう
一言くらいに
とどめておいて
小さな紙に
記しておいて
私たちの中にあるでしょう
涙がつくった砂時計に
二つ折にして入れておく
時が経って
思い出したら
朝と夜を
さかさまにして
茫洋な明日を眺めましょう
そのとき砂の滴る潮の音が
私たちの思い出を
すこしずつでも
渫(さら)っていくと思うから
時が経っても
思い出すことがないのなら
私たちは
生きていけると思うから
『猫』
南に向かって大きく
欠伸をしていた君が
私に気が向いたのか
気怠るげに寄ってきて
真っ白な毛並みの揃う
靱やかな体を
私の足に触れさせた
懐いてはくれているみたい
だけどいつも一緒にいるのに
君が本当に幸せなのか
もっときれいな幸せを描いているのか
人である私にはわかってあげられない
だから今日も君の小さな頭と
ミツバチのような小さな耳
それから背中まで撫でてあげる
君が飽きたと立ち去るまで
生きてきていっぱい
頭を叩かれた私は今日も
撫でると蕩けて
甘いグミになっている君を
今日も撫でてあげる 撫でてあげる
「七色の惑星」
ナイジェリアの砂漠が
太陽に沸騰すれば
メキシコシティの唄歌いが
陽気に赤くギターでメロディを弾く
するとベトナムの密林に
にわか雨を呼ぶ
にわか雨は緑に広がりをもたせる
デリーのマゼンタの
インド更紗の笑顔の女性
地球は青い惑星でなく七色に輝く惑星
ラスベガスの今宵も高鳴る熱気が
最低気温を上昇させるなら
黄色のライトアップは星屑なんて
いらないくらいに夜空を飾る
夜明けまえの空は覚める前の夢と
同じ色をした紺碧
吹き抜けていく潮風を追うように
明日が昇ってくる
明日はこの惑星に充分なひかりを与える
うん。きっと心も染まる
青色だ日本海
『羽』
青い空の色を湛(たた)えた
羽が生えた
空を飛べるわけじゃない
風に乗れるわけじゃない
ちょっと歩幅が大きくなるだけ
それはほんの少し
君にも羽が生えている
ぼくとは違う
それはぼくより速そうな
飾り羽があって
太陽に君の羽を透かすと
かすかな虹色
それが少し切なくて
ほんの少し
だから
ここでお別れ
「私という名の本」
あなたのこころの本棚に
私という名の本はのこっていますか
もしもまだあるのなら
いつしか手に取って読んでほしい
私という名の本
それはきっと
すこし厚みのある本だと思います
休みながらでいいから
いつしか手に取って読んでほしい
私という名の本
それはかならず
冒頭に記されている
私があの時あなたに渡した
小さな封筒のラブレター
それもあなたの
あなたのどこかに
もしもまだあるのなら
栞がわりにしてくださいますことを
「愛のちから」
僕とお前が一緒になったとき
右側と左側で
愛のちからが生まれた
だけどやっぱり
それは素晴らしいとか
偉大なものなんかじゃない
愛のちからでは悪には敵わない
愛のちからでは病も治せない
愛のちからでは時間を止められない
愛のちからは素直になることに
たくさんの勇気が常に必要になる
愛のちからのいいところは
「もう二度と」という言葉を
否定し続けられることだけだ
きっとそれだけだ