Day.37_『終わらない問い』
終わらない問い、か。
では、これを読んでくれている君に聞こう。
「『好き』とは、何か?」
頭の中で思い浮かべるだけでいい。
私は、君の「回答」を否定するつもりは無い。
それが君の「答え」であると、自信を持てるのならそれでいい。
さて、突然だが、私には「好き」というモノが何か分からない。
「好きな食べ物が分からない?」
「なら、嫌いな食べ物ばかりなの?」
そう思った君、半分正解で半分不正解だ。
好きな食べ物はもちろんある。
カレーが好き。
ラーメンが好き。
パスタも好きだ。
嫌いな食べ物だってある。
香りのキツいものが嫌い。
漬物が嫌い。
一部のフルーツが嫌い。
こんな感じにな。
しかし、私が言っている「好き」は、これとは違う。
「好きな曲」
「好きなアーティスト」
「好きな人」
この質問に私は答えられない。
なぜなら、この系統の「好き」が分からないから。
「私、〇〇っていう曲好きなんだ!」
「俺は、△△っていうアーティストが好きでさ」
「僕……隣のクラスの☆☆って人、好きなんだ」
これが分からない。
曲は聴く。個人的にプレイリストに作ったりしている。
歌手なんかも偏りはある。何人かはSNSでフォローしている。
学生時代、好きな人がいた時もあった。
しかし、私の想像している「好き」とはどれも違う気がするのだ。
曲は、カッコイイ!良い曲!と思ったから聴いているだけ。
その結果、歌手に偏りが出ているだけ。
好きだった人も、それは恋愛的な好意ではないと、後から気づいた。
どこからが「好き」だと言えるのだろうね。
その曲をずっと聞いているだけで、「好き」と言える?
その曲の歌手、製作者、関係者全てを知って始めて「好き」と言える?
その歌手が歌っている曲、一曲でも聴いてれば「好き」と言える?
その歌手が歌っている曲、全て知っていて「好き」と言える?
その歌手が歌っている曲、全ての曲を好きになって初めて、「好き」だと言える?
その歌手の主催、出場しているライブやイベントに参加したり、グッズを買って初めて「好き」だと言える?
学生時代、好きだった人も恋愛的な「好き」ではなかった。
あの人のようになりたいから好き。
あの人のように慕われる人間になりたいから好き。
そういった、「尊敬」の意味での「好き」だった。
なら、「恋愛的な意味での『好き』」とは、何か。
「好き」だという、その境界線って、どこなのだろうか。
もう一度、問おう。
「『好き』とは、何か。」
Day.36_『揺れる羽根』
秋の星空が綺麗な日に、俺は縁側に座っていた。この時期の月は、どの形をしていても綺麗だ。
「キレイだね、月」
隣に座る彼が言う。
「そうだな」
俺は、静かに答える。すると、彼は続ける。
「君の羽根も綺麗だよ」
「……どーも」
俺は、素っ気なく返事をする。彼は、俺とこうして話している時は、いつも言う。俺の羽根は、もう飛ぶことすらできなくなってしまった。あの白かった羽根も、もうその面影を残していないくらい、黒く染まってしまった。こんな、汚れた羽根がどこがキレイだと言うのだろうか。
「君の羽根は、夜と相性が良いんだ。本当に綺麗だよ」
「俺の羽根は、汚れている。キレイなんかじゃねぇ」
「そんなことないよ」
彼は、静かに俺の背中に生えた羽根を触ってくる。骨の部分に触れる度、彼の温もりが伝わってくる。優しい、温もりだ。
「君の羽根は、汚れてなんかいない。ほら、空の星々が映っているよ?」
「羽根に反射する効果はねぇよ。どんな素材でできてると思ってるんだ」
「えっ?うーん……ガラスとか?」
「訊いた俺が馬鹿だった……」
「あはは!やーい、バーカ!」
「……殴りてぇ」
楽しそうに、愉快に笑っている彼。その様子に俺は、複雑な心境を覚えていた。
「……なぁ」
「ん?」
俺は、訊いてみることにした。
「お前は、いいのか?」
「何が?」
キョトンとした様子で聞き返してくる彼。俺は、少し遠慮がちに続けた。
「お前は、純粋な人間だ。俺みたいな、化け物に命を捧げる必要なんて無いだろ……寿命も、短いのに」
「………」
そう、彼は人間。本来、俺のような化け物なんかと一緒に過ごしてはならない。しかも、俺は化け物の中でも人間を食糧としている種族。普通なら、共に居てはならない存在だ。
しかし、彼はそれを選ばなかった。
「君を、『化け物』だなんて、一度も思った事ないよ」
「………」
「君は、僕を孤独から救ってくれた恩人だ。あの日、死のうと思っていた僕を止めてくれたのは、紛れもない、君だった。そうでしょ?」
「それは、そうだが……」
俺は、言葉に困る。すると、彼はニコッと笑いながら続けた。
「自分の命を救ってくれた恩人を『化け物』だなんて、思うはずがないよ。それも、『君が飛べなくなるリスクを背負って助けてくれた』ってなれば、余計に、ね?」
「………」
「……それに」
「それに?」
彼は、俺の羽根を優しく触りながら呟いた。
「君に、身を捧げることで恩返しができているのなら、安いもんだよ。綺麗な羽根も見れるし」
「…っ!」
彼の、その言葉に嘘はなかった。ただ、純粋に、そう思っているのが分かった。
「……本当に、綺麗だ」
「………」
うっとりとした表情で、俺の羽根を触る彼。それは、どこまでも優しく、温かかった。
「……ありがとな」
「……こちらこそ」
俺は、静かに羽根を揺らしながら、空を眺めていた。
秋の、少し欠けた月が、俺達を照らしていたのだった。
Day.35_『秘密の箱』
道行く先に、箱が落ちていたら拾ってはならない
その箱からは
甘い香りがするかもしれない
刺激的な香りがするかもしれない
酸っぱい香りがするかもしれない
だが、その箱を見つけても拾ってはならない
開けるなんてこと、言語道断だ
なぜならそれは
我々人間が封じ込めている、秘密の箱『パンドラ』なのだから
人間の欲求
人間の本心
人間の感情
人間の記憶
人間の仮面
そういったものを入れてある箱なのだ
決して、中を覗こうとしてはならない
開けてしまえば君は
もう、元には戻れないかもしれないからな
Day.34_『無人島に行くならば』
ふむ、無人島、ね。
正直、出来ることなら無人島になど行きたくはない。
なぜかって?
そりゃあ、私が足りないものだらけだからさ。
自給自足するだけの度胸と技術。
何があっても柔軟に対応することのできる頭脳。
その他、諸々。
もし、イベント企画などで行くことになったのなら、
一日目でリタイアする未来が見える。
でもまぁ、人生いろいろ、だからな。
どうしても無人島に行かなければならない。
そんな状況になれば、話は変わってくるのだろう。
そこで話題になるのが、やはりコレだろうな。
「無人島に何を持っていくのか」
これに尽きる。
ふざけた回答をするのなら、
ゲームやインターネット。
どこかの未来の猫型ロボットの不思議ポケットや
スマホやパソコン
などが挙げられる。
しかし、真面目に答えるとするのなら
ナイフ
図鑑や資料(紙製のもの)
数日持つ非常食と水
バックパック
応急手当キット
キャンプグッズ(テントや寝袋など基本的なもの)
と、この辺だろうか。
電子機器は、スマホくらいは持っていくかもしれないが、
電波が通らなけば意味が無いからな。
私にとっては、優先度は低い。
正直、これらを持って行ったとしても、
生き残れる確率は、かなり低いと思っている。
それだけ、今の生活に慣れてしまっているからだ。
自分が過酷な環境にいる時の状況が想像できないのだ。
だから、このテーマにおける私の回答は一つ。
「そんな日が来ないことを、切に願っている」
これに尽きる。
Day.33_『秋風🍂』
中学のある時期、私は同学年全体で話題の中心になったことがある。
今や、名前も顔も覚えていない、他クラスの生徒が、私のことを好きだという、噂が回ったのだ。
当時、私は、クラス内で浮いていたり、部活動で浮いていたりと、とてもじゃないが、恋愛になんて視野を広げている場合ではなかった。
また、地味で肥満。運動もできなければ、勉強もできない。
そんな人間を、女子から人気のあるサッカー部の生徒が好きになるなんてこと、ある訳が無い。
あったとしても、それは、同じ部活のメンバーからの罰ゲームで言わされたのだと、そう思っていた。
また、その生徒と同じサッカー部で、私と同じクラスだった生徒が、私に「アイツがお前のこと好きらしいぞ」と、茶々を入れてきた。それが、問題だったと思う。
当時、教室で本を読んでいた私は、その人達が廊下で騒いでいたのは、分かった。
ドタドタと、教室に走ってくる音が聞こえる。
うるさいなと、思いながらチラッとそちらに視線を向けると、その生徒2人が興奮した様子で私のところに駆け寄ってきた。
当時の会話は、今でも鮮明に憶えている。
「告ってきたらどうする?」
腹立たしいほど、笑顔で聞いてくる部外者の生徒。
私は、迷わず言った。
「えっ、振るよ」
「えっ!?振るの!?なんで!?」
驚きとからかいの目で言ってくる。私は内心、腹を立てながら言ってしまった。
「恋愛なんて、興味無いから。っていうか、その人のこと、私知らないし、会ったことすらないんだけど」
「イケメンだよ?いいの!?」
安直な質問。私は、はっきりと言った。
「しつこい」
私がそう言うと、彼らはすぐに廊下に走っていった。その先で聞こえてくる「お前のこと、『振る』って!」という、言葉。
これで、諦めてくれるだろう。私が、こういう人間なんだと、分かってくれただろう。そう、思っていた。
しかし、それから話はさらに大きくなっていた。
普段から、不登校気味になっていた私が、久しぶりに学校に行けば、彼の話をクラスメイトやサッカー部の生徒から持ちかけられる。
挙句の果てに、サッカー部の顧問だったか、副顧問だった担任にも「アイツがお前のこと気にかけてる」と、言われる始末。
私は先生に、眉をひそめながら言った。
「なんで、あなたまで知ってるんですか」
先生は、その後何かを言った気がするが、覚えていない。ろくな返し方はされてないと思う。
結局、その生徒から告られることも、話しかけられることもなかった。元々、幼なじみだった訳でもなく、クラスが一緒だったり、合同授業で一緒だった訳でもない。
私にとっては、いつの間にかに終わったんだなとしか、当時は思わなかった。
それを感じたのは、丁度、今頃の季節だったなと思う。
彼は、告らずして、失恋を経験したのだ。
彼が行動する前に、私が終わらせたのだ。最悪な形で。
数年経った今、その事を思い返していた。
今思えば、私のあの言動や行動は、彼にとってはショックの大きい事だっただろうなと。
いくら、私自身に余裕がなかったとしても、もう少しマシな返し方があったのではないかと。
しかし、当時、人間不信だった私には、そんなことできるわけがないよなと。
半年間くらいだったが、彼は、私のことを気にかけてくれていたんだなと、今になって嬉しく思った。そして、後悔もした。
ただ、不思議に思うこともある。
なぜ、私だったのだろう。
幼なじみの訳でもない、同じクラスだった訳でもない、同じ部活だった訳でもない。
まるで共通点が無かったのだ。もちろん、面と向かって話したことも無い。
私が容姿端麗な訳でもない、文武両道な訳でもない、性格も最悪だ。
それなのに、彼は、私に好意を抱いていた。
それが不思議でならなかった。
例えそれが、「罰ゲーム」だったとしても、私を選んだ理由を知りたいと思った。
今では、もう、彼には新しい恋人ができていることだろう。
結婚もしているかもしれない。子供もいるかもしれない。
私は、恋人は出来ていないけれど……
彼が、私と付き合わなかったことで、得られた出会いだ。
絶対、そっちの方が良いに決まっている。
こんな、最低な人間と付き合うくらいなら。
でも、もう一度会えたのなら……
「ごめんなさい」
の一言くらいは、言わないとなと、思っている。
まぁ、それで告られたとしても、私は頷くことはしないだろう。
何故なら私は、最低な人間だから、ね。