気まぐれなシャチ

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Day.33_『秋風🍂』

中学のある時期、私は同学年全体で話題の中心になったことがある。
今や、名前も顔も覚えていない、他クラスの生徒が、私のことを好きだという、噂が回ったのだ。

当時、私は、クラス内で浮いていたり、部活動で浮いていたりと、とてもじゃないが、恋愛になんて視野を広げている場合ではなかった。
また、地味で肥満。運動もできなければ、勉強もできない。
そんな人間を、女子から人気のあるサッカー部の生徒が好きになるなんてこと、ある訳が無い。
あったとしても、それは、同じ部活のメンバーからの罰ゲームで言わされたのだと、そう思っていた。

また、その生徒と同じサッカー部で、私と同じクラスだった生徒が、私に「アイツがお前のこと好きらしいぞ」と、茶々を入れてきた。それが、問題だったと思う。
当時、教室で本を読んでいた私は、その人達が廊下で騒いでいたのは、分かった。
ドタドタと、教室に走ってくる音が聞こえる。
うるさいなと、思いながらチラッとそちらに視線を向けると、その生徒2人が興奮した様子で私のところに駆け寄ってきた。
当時の会話は、今でも鮮明に憶えている。

「告ってきたらどうする?」
腹立たしいほど、笑顔で聞いてくる部外者の生徒。
私は、迷わず言った。
「えっ、振るよ」
「えっ!?振るの!?なんで!?」
驚きとからかいの目で言ってくる。私は内心、腹を立てながら言ってしまった。
「恋愛なんて、興味無いから。っていうか、その人のこと、私知らないし、会ったことすらないんだけど」
「イケメンだよ?いいの!?」
安直な質問。私は、はっきりと言った。
「しつこい」
私がそう言うと、彼らはすぐに廊下に走っていった。その先で聞こえてくる「お前のこと、『振る』って!」という、言葉。
これで、諦めてくれるだろう。私が、こういう人間なんだと、分かってくれただろう。そう、思っていた。

しかし、それから話はさらに大きくなっていた。
普段から、不登校気味になっていた私が、久しぶりに学校に行けば、彼の話をクラスメイトやサッカー部の生徒から持ちかけられる。
挙句の果てに、サッカー部の顧問だったか、副顧問だった担任にも「アイツがお前のこと気にかけてる」と、言われる始末。

私は先生に、眉をひそめながら言った。
「なんで、あなたまで知ってるんですか」
先生は、その後何かを言った気がするが、覚えていない。ろくな返し方はされてないと思う。

結局、その生徒から告られることも、話しかけられることもなかった。元々、幼なじみだった訳でもなく、クラスが一緒だったり、合同授業で一緒だった訳でもない。
私にとっては、いつの間にかに終わったんだなとしか、当時は思わなかった。
それを感じたのは、丁度、今頃の季節だったなと思う。
彼は、告らずして、失恋を経験したのだ。
彼が行動する前に、私が終わらせたのだ。最悪な形で。

数年経った今、その事を思い返していた。
今思えば、私のあの言動や行動は、彼にとってはショックの大きい事だっただろうなと。
いくら、私自身に余裕がなかったとしても、もう少しマシな返し方があったのではないかと。
しかし、当時、人間不信だった私には、そんなことできるわけがないよなと。
半年間くらいだったが、彼は、私のことを気にかけてくれていたんだなと、今になって嬉しく思った。そして、後悔もした。

ただ、不思議に思うこともある。
なぜ、私だったのだろう。
幼なじみの訳でもない、同じクラスだった訳でもない、同じ部活だった訳でもない。
まるで共通点が無かったのだ。もちろん、面と向かって話したことも無い。
私が容姿端麗な訳でもない、文武両道な訳でもない、性格も最悪だ。
それなのに、彼は、私に好意を抱いていた。
それが不思議でならなかった。
例えそれが、「罰ゲーム」だったとしても、私を選んだ理由を知りたいと思った。

今では、もう、彼には新しい恋人ができていることだろう。
結婚もしているかもしれない。子供もいるかもしれない。
私は、恋人は出来ていないけれど……
彼が、私と付き合わなかったことで、得られた出会いだ。
絶対、そっちの方が良いに決まっている。
こんな、最低な人間と付き合うくらいなら。

でも、もう一度会えたのなら……
「ごめんなさい」
の一言くらいは、言わないとなと、思っている。

まぁ、それで告られたとしても、私は頷くことはしないだろう。

何故なら私は、最低な人間だから、ね。

10/22/2025, 1:44:50 PM