【寂しさ】
君がいなくなったときから今までの間、
流れてくるSNSのタイムラインで必ず
君の名前を見つけることができる
僕も知ってるエピソードの数々、
僕も知らなかった君の横顔、
その全てが優しくて愛おしい
今でもずっと君と過ごしているような
そんな気がして嬉しい
それでも、ふと寂しさを感じる時がある
粉雪のように音もなく、深々と降ったり
すきま風のようにふと忍び込んできたり
そんなときは少しだけ体温が下がる
旅立った君が置いてったものに触れると、
冷えた身体に温もりが戻ってくるから
この寂しさとともに生きていくのも
案外悪くはないのかもしれない
今ではそう思えるようになった
きっとずっと一緒にいる その方が楽しい
【夢と現実】
「これが現実だったらいいのに」
と思う夢を見ることはあまりないが、
「これが夢ならどんなにいいことか…」
という現実の出来事ならめちゃくちゃある
とりあえず、過去に起こってしまった
思い出したくないような出来事は
「あれは全部夢の中のことだった」
ということにして自分を納得させている
だから今、僕は生きている
【愛情】
もう永遠に君とは会えない
その事実を受け入れられないまま、
時間だけが過ぎていく
あれから随分経ったのに、僕が目にする
SNSのタイムラインは今も賑やかで
君が愛した人たちと君を愛する人たちが
今日も楽しい想い出を語っている
君からの愛情は今も誰かに届いていて
君への愛情も誰かが届け続けている
君からの言葉と君への言葉が交差するのを
僕は幸せな気持ちで眺めている
時々、すきま風が吹き込んでくるように
君がいない寂しさを感じてしまうけど
そんなときも君と君を愛する人たちの
愛情あるエピソードの数々に救われている
ふと気がつくと僕は、夕方になると
君が好きだった歌を口ずさんでいる
僕と君との想い出の中にある大切な歌
おかげで僕は今日もまた
カレーライスが食べたくて仕方がない
【落ちていく】
ようやく泣けた
本当に泣けた
今までの悲しみや苦しみが
とめどない涙とともに
遥か彼方へと落ちていく
やがて涙は穏やかに流れ
私は静かにその川を渡る
この先に続いている
あたたかい光の射す方へ
【どうすればいいの?】
父親が大のジャイアンツファンだった俺は、小さい頃から野球が大好きだった。大学でも野球部に所属し、パワーヒッターとしてチームメイトからも信頼されていた。
2年下の志摩谷は、俺が打撃練習のときには必ずバッティングピッチャーを買って出てくれた。お互い呼吸が合うのか、練習のパートナーとして彼は最適だった。
ところが、今シーズン最初の練習でアクシデントが起きた。運悪く、志摩谷の投球が脇腹に当たってしまった。
その後の診断で、肋骨にヒビが入っていることがわかった。この事実をそのまま伝えたら、おそらく彼はボールをぶつけた自分自身を責めるだろう。そう思った俺は、監督だけに怪我の報告をして、他のメンバーには言わないでほしいと伝えた。
ところが、シーズン最終戦を終えた後のミーティングで監督が口を滑らせた。
「いや〜、皆本当によく頑張ってくれた。特に神原はあの怪我の中…」
「しまった」という表情で、監督が一瞬こちらを見たが、何事もなかったかのように「今日もいい試合だった。来シーズンも頑張ろう!」と自身の挨拶を締め括った。
他のやつが「何で言ってくれなかったんだよ〜、水くさいなぁ〜、もぉ」と戯れてくる中、志摩谷だけは離れた場所で明らかに不機嫌な顔をしていた。そして、チームメイトがあらかた帰って俺と志摩谷の2人きりになったところで、彼は怒りを爆発させた。
「どうして教えてくれなかったんですか、そんな大事なことを‼︎」
目に涙を滲ませながら、志摩谷は俺を責めた。後輩の僕じゃ言っても頼りにならないと思ったのか、なぜ信頼してくれなかったのか、と次々たたみかけるように言葉を浴びせ続けた。
「黙ってないで何とか言ったらどうなんですか⁈」
一気にそこまで言うと、彼は一旦呼吸を整えるように深呼吸を始めた。俺はそのタイミングで、彼に話し始めた。
「…あのな、志摩谷。俺はお前と違って、そう次々にポンポンと言葉が出てくるタチじゃないんだ。今からちゃんと説明するから、少し時間をくれないか」
俺は、水を一杯飲んで気持ちを落ち着けた後、言葉を続けた。
「怪我のことを言わなかったのは、皆を信頼していなかったわけじゃない。大事な試合を控えたタイミングで、余計な心配をかけたくなかったし、変に遠慮されるのも嫌だったんだ。特にお前は、あのときの練習パートナーだったから責任を感じて自分を責めてしまうんじゃないかと思って言えなかった。でも、結果的にはお前を傷つけてしまったな。すまない」
志摩谷は黙って俺の話を聞いていた。
まだ、怒りは収まってはいないだろう。
「なぁ、志摩谷。いったいどうしたら、俺のことを許してもらえるのか、教えてほしい」
すると、あれほど勢いよくまくしたてていた彼が小声でボソボソと答えた。
「…して…ほしい…です」
「え? 今、何て言った?」
すると、志摩谷は声のボリュームを一気に上げた。
「だからっ‼︎ 友達になってほしいって言ったんですっ! 友達だったらお互い何事も隠さず言えるだろうし、相手に何かあったらすぐ飛んでいけるしっ!」
いつの間にから、彼の顔は真っ赤になっていた。2コ上の先輩に提案するには、彼なりにも勇気がいったことだろう。それだけ、彼は本気で俺のことを心配してくれていたのだ。
「うん、わかった。じゃ、友達になろう。これからは、何かあったら遠慮なくお前に知らせるし、お前から知らせがあればいつでも飛んでいく」
そして、両手を差し出し彼に握手を求めた。彼は素直に両手を出して力強く俺の手を握った。そのタイミングで俺は彼の名を呼んだ
「これからもよろしくな、和也」
一瞬「えっ」という表情を浮かべた志摩谷和也は、すぐに握っていた手を振り払った。
「いくらなんでも、急に距離詰めすぎです‼︎」
そう言って、その場から走り去ってしまった。
ったく、だったらどうすりゃいいんだよ?
ため息をつきながらも、あの少々不器用な後輩と友好的な関係になるためにはどうしたものかと既に考えを巡らせていた。お互いが名前呼びになり、ひとつ屋根の下で暮らすようになるのはもうちょっと後のことだ。