木蘭

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10/2/2023, 9:59:35 AM

【たそがれ】

夕暮れ時を「たそがれ」と呼ぶようになったのは江戸時代よりも後のことだという。

「たそかれ(誰そ彼)」、つまり夕方薄暗くなる頃は人の顔の見分けがつきにくいので「誰だ、あれは?」と言ったのがその語源だと言われている。

今なら誰かとすれ違っても、私だとはわからないかもしれない。ついさっき、3年付き合った彼と別れた。私から切り出したが、その直後に今までの想い出が一気に押し寄せて感情が爆発しそうだった。彼の前では何とか平静を装っていたが、背を向けた瞬間から涙が止まらなかった。

この薄暗さが、私の救いになった。
今がたそがれ時で本当によかった。

9/30/2023, 12:53:27 PM

【きっと明日も】

ホントは創作モノなんて書くはずじゃなかった。小説とかファンタジーは心底苦手だったし、この先も縁遠いものなんだろうって勝手に思ってた。

エッセイとかコラムとか、ごくごく身近な「ホントの話」を書いていくつもりだった。それなのに、どうしても書くことのできない「ホントの話」ができてしまった。

本気であなたに恋をしてしまった。

現実には決して成就することがない想いだから、本来であれば消し去らなければならない。頭ではわかっていたけれど、気持ちはいつまでたっても変わることはなかった。それどころか、抜けないトゲのようにじんわりとした痛みとともにいつまでも心の真ん中に突き刺さってていた。

現実でダメでも、創作ならネタになる。むしろ、恋すれば恋するほどストーリーが溢れ出す。だから、あれほど敬遠していた創作の世界に足を踏み入れてしまった。

誰にも遠慮することなく、好きな人のことを好きなだけ考えられる世界があるってそれだけでも幸福なのに、そこから派生して新たな物語が生まれるなんて、「ホントの話」だけを書いていた頃には考えられなかった。

きっと明日も、私はあなたの笑顔を思い浮かべながら新たな物語を綴っていく。その先もずっとずっと、この恋を架空のストーリーに重ね合わせていくのだろう。

9/30/2023, 8:22:23 AM

【静寂に包まれた部屋】

放課後、誰もいない教室に1人残って本を読むのが好きだった。図書室や自宅とはまた違い、1ページまた1ページとめくっていく音だけが室内に響いている。

だがしかし、そんな静寂は長くは続かない。

「お〜い、まだ残ってんのかぁ。用がないならさっさと帰れよ〜」

そうか、今日の鍵閉め当番は担任のカワサキか。この人、自分が早く帰りたいんで早々にに校内回って生徒を追い立てるんだよね。

「あ、またお前か。帰宅部員なら余計な事しないでちゃんと家に帰るのが部員の務めだろう、なぁホンダ」

「別に私、帰宅部員じゃなくて単にどの部活にも入ってないだけです。それに、読書は私にとって余計なことじゃありません」

「本を読みたいなら、家に帰ってから思う存分読めばいいだろう。学校ってところは時間に限りがあるんだから」

「家で読むのとは違うんです。この教室でこの本を読みたいんです。先生、担任なら受け持ちの生徒がクラスを愛するこの気持ち、わかりますよね?」

もちろん、嘘は言っていない。ただ、私が愛するのは『静寂に包まれた放課後の教室』だということを言っていないだけだ。

しかし、先生は私の言葉を真正面から受け止めたようだって。

「う〜ん、そうかぁ…それであと何分くらいあれば読み終わるんだ、その本は?」

「え〜っと、キリのいいところまでだと15〜20分くらいほしいです」

なるほど、と言った後で先生は私が持っていた本を覗き込んだ。

「あぁ、その本か。俺も昔、何度も読み返したやつだ。たしかに、それくらい時間がかかるよな。じゃ、キリがついたら知らせろよ」

そう言って、先生は教室を後にした。

再び訪れた静寂の中でページをめくる音を楽しんでいると、突然音もなくカワサキが現れた。そして、机の上にコトンと何かを置いた。

「適度に水分とらんとな。よかったら飲んどけよ」

それだけ言うと、先生はまた教室から出て行ってしまった。

置かれたのは、購買の横にある自販機で買ったであろうパック飲料だった。あまり馴染みのない味だったグレープフルーツジュース。若干の苦味を感じながらも甘味と酸味のバランスがうまくとれている。後味もスッキリしていて、爽やかな気分になった。

「仕方ない、これ飲み終わったら帰ってやるとするか」

読みかけた本に栞を挟み、残りのジュースを一気に飲み干した。

この日、私は新たにグレープフルーツジュースと少々お節介が過ぎる担任の先生を好きになってしまった。

9/3/2023, 9:59:22 AM

【心の灯火】

月曜から金曜まで午前2時から3時間、生放送でお届けしている『ミッドナイトレインボー 真夜中の虹』通称まよにじ。本日もたくさんのメッセージをいただいております。どうもありがとう。

で、その中で気になる1通がありまして…いつもの放送でお届けしているのとは違う雰囲気の内容なんですけれど、ちょっとここで紹介させてください。

「はじめまして、僕は高校1年の男子です」とメッセージをくれたのはラジオネーム『まよにじの信者』くん。おぉっ、とうとうこの番組にも信者さんがつくようになったんだ。嬉しいかぎりですねぇ。

「僕は今、「まよにじ」を聴くのが唯一の楽しみです。学校では、毎日のようにクラスメイトにしつこくからかわれたり、持ち物が隠されたりしています。本当は行きたくないけど、親がうるさくて毎朝追い立てられるようにして登校しています」

「家では、いつも楽しそうにしている家族とうまく話せなくてずっと自分の部屋にこもってます。正直、生きてるのが辛いです。でも、「まよにじ」が聴きたいから生きてます。でも、辛いです。どうすればいいですか?」

…うん。

まず『まよにじの信者』くん、メッセージありがとう。きっと、君にとってとても勇気のいることだったと思います。それでも、一歩踏み出してくれたことに僕は心を揺さぶられました。本当に、どうもありがとう。

きっと、この番組を聴いてくれてるリスナーさんの中にも『まよにじの信者』くんと同じように生きづらさを抱えたり、過酷な状況に身を置いたりしている人がいると思うんです。

僕が『まよにじの信者』くんの代わりになったり、物理的に何かアプローチをしたりすることはできません。ただ、できることがあるとしたら何だろうって、このメッセージが届いてからずっと考えていました。

今から少し思い上がったことを言うけど、どうしても『まよにじの信者』くんに、そしてこれを聴いてる全ての人に伝えたいことがあるんだ。

できれば明日も明後日も、月曜から金曜までず〜っと、この番組を聴くために生きていてほしい。君が生きるためにここが大切な場所であるなら、僕はそういう場所で在り続ける
ように精一杯努力していく。君には、その道程を見届けて、いや聴き届けてほしいんだ。

『まよにじの信者』くんのメッセージは、僕が番組を続けていく上で大切なことを考えさせてくれました。何度も何度も読み返すうちに、心の中にポォっと灯りがともった感じがしました。きっとそれは今の僕らの足下を照らす灯りであり、これからの僕らが歩む道程を照らす灯りでもあると思っています。

ありがとね、みんな。
聴いててくれて、ホントありがとね。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

さて、そろそろお別れの時間ですが…あっ、さっき『まよにじの信者』くんが新たにメッセージ送ってくれまして。

「こちらこそ、僕の拙いメッセージを受け止めてくれてありがとうございます。明日も明後日もずっと『まよにじ』聴くために生きていきます。真っ暗だった僕の心に灯った火、これから大事に大事にします!」

うん、これからも聴いてて。また、メッセージも待ってるよ。それでは、また明日!

8/23/2023, 6:46:20 AM

【裏返し】

きらいよ きらい だいっきらい
あなたになんか あいたくない
こえも ことばも しぐさも すべて
あなたのものなら ほしくない

書かれていたのは 鏡文字
ひねくれ者の ラブレター

すきです すきです だいすきです
あなたにあいたくてたまらない
こえも ことばも しぐさも すべて
あなたのものがいとおしい

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