【無色の世界】
ちょうど今読んでいるウェブコミックの中に、
余命半年と宣告された死神さんの物語がある。
それを読みながら、ぼんやりと
「あぁ、この世にはさまざまな色があるけれど、この世を離れたらまったく色のない世界になるのかなぁ」
と思った。
あの世=無色の世界
…かどうかは行ったことはもちろんのこと、
風の噂で見たことも聞いたこともないので
本当にそうであるかどうかはわからない。
ただ、私たちが生きているこの世界は
たしかに数多くの色で「彩られて」いる。
一口に「赤」や「青」といっても、
実は何百、何千という種類の色名がつけられている。
彩りに満ち溢れたこの世界は時として疲れるけれど、彩りが全く無くなった「無色の世界」に行きたいとは
思わない。だから、この世で出会う全ての彩りを大切にこれからも生きていきたい。
ただ…
色とりどりのインクをこれ以上増やすのは考えものだよな。たぶんもうとっくに100色超えてるし。
【桜散る】
盛大に咲き誇っていた庭の桜が散り、一抹の寂しさを覚える今日この頃…などと感傷に浸る時間などまったくない。実際、庭では入れ替わるように栃の木の葉が生い繁り、白躑躅もひしめき合うように咲いている。
そして私は、部屋の片付けの真っ最中だ。
そもそも、桜が散りゆく少し前のこと。
長年勤めていた店が移転するのに伴い、
私の仕事も半ば強制的に終了してしまった。
これはこれで私の中の「桜散る」だったが、見方を変えれば「新たな花を咲かせるチャンス」でもあった。元々、複数の仕事を抱える多忙な日々だったので、自分自身の「働き方改革」を進めるためには絶好の機会だった。
とはいえ、今までとは違う生活のリズムに戸惑い、掛け持ちしていた仕事先でも×0年目にして新たな業務を覚えることとなり、思い描いていた改革とはまた違う方向へ歩むこととなった。
仕事で気を張ってる分、家事は「死なない程度」にこなすだけでほぼ手付かず同然だった。特に、夜寝るためだけに入る自室の現状は悲惨だった。精神的にも肉体的にも片付けや掃除を余裕は全くなく、その結果ありとあらゆるモノが増え続けることとなった。
そして、今。私は大変困っている。
探しても探して見つからない失せ物たちが
溢れかえるモノたちの中に潜んでいるのだ。
ゆえに本日、私は朝から自室にこもり、
部屋の清掃並びに失せ物を大捜索することとした。
片付け、というよりも埋められた…いや、勝手に埋没してしまった財宝を探す「宝探し」に近いのかもしれない。そう考えると、これから夕方まできるであろう捜索作業も何とか乗り切ることができるだろう。
「桜散る」ことで、新たに得られたこの機会を、
私は私なりに大切にしていこうと思っている。
とりあえず、最近失くしたスーパーのポイントカードと使い慣れたマイバッグを見つけることが今の私に与えられた最重要課題だ。
【ここではない、どこかで】
ここではないどこかで、私ではない誰かが…いや、必ずしも私ではないとは言い切れない人物が、さまざまな人生のストーリーを紡ぐ。それが、小さい頃から現在にいたるまで続く、私の真夜中の過ごし方だ。
物心ついたときには既に、もう1人の自分のような少年が傍に存在していた。可愛いガールフレンドとただただ無邪気に遊んでいる子だった。自分に近い、それでいて自分ではない少年は、現実には同じ年頃の子どもが近くにいなかった自分にとって唯一無二の存在だった。
それからずっと、夜は彼の人生を歩むための時間となった。家族との縁は薄く、ひょんなことからラジオパーソナリティとして採用された彼は、大好きな音楽から役者の世界へ足を踏み入れる。さまざまな役柄を演じることとなった彼の姿を、毎夜ベッドの上で追い続けているのだ。
彼を取り巻く人もまた、現実に存在する人にかぎりなく近い別の人だ。限られた時間の中で、無限に広がる「ここではない、どこかで」の物語。今宵も彼らがまた新しいストーリーを紡ぎ出すのだろう。
あぁ、今から寝室に行くのが楽しみだ。
【届かぬ想い】
「いや、う〜ん…何か違うんだよなぁ…」
発注していたカラーサンプルを前に、私は困惑していた。オリジナル商品のアイデアを提案して即採用されたまではよかったが、具体的なイメージを第三者に伝えることの何と難しいことか。
特に「色味」は、最重要項目であると同時に最も伝えづらいものであることをこのとき思い知ることとなった。このとき発注した色は「鮮やか赤紫色」で、イメージに近いDICの色番号も調べて伝えていた。
ところが、届いたカラーサンプルは「赤紫」というよりもかなり「赤」だった。合わせる色は乳白色と決まっていたので、これでは意味なくおめでたい紅白色になってしまう。
社長と相談の末、何か自分がイメージした色に近いモノを実際に見てもらった方が良いということで、最もそれに近いと思われた赤紫色の色鉛筆をお渡しした。
が、これもまた一筋縄ではいかなかった。
「え〜と、色の濃い部分と薄い部分のどちらでしょうか?」
想定外の質問だった。塗った色じゃなくて、軸そのものの色でいいんですけど…と思ったが、最終的にはこの手の発注に手慣れた社長に一任することとなった。
そして、再び届いたカラーサンプルは正に私がイメージしたとおりの色味だった。かくして私の提案したオリジナル商品はこの後約半年後に無事商品化された。
ちなみに、その後で別の商品開発に携わったときにも色味のイメージが上手く伝わらず、冒頭の台詞を再度呟くこととなった。そのとき送っていただいたカラーサンプルはとある商品に生かされることになったのだが、それはまた別のお話。
【神様へ】
私が世界で一番好きな人は、いつも何処かで誰かのためにギターを弾いたり歌を歌ったりしている人。そしてサービス精神が旺盛で、ついついトークが長くなりがちな人。
私が14歳の誕生日を迎えるちょっと前、
たまたま部屋でFMラジオが流れていた。
「僕らの新曲です。聴いてください」
その声に耳を傾けると、続いて流れたその「新曲」に心奪われてしまった。透きとおるようなサウンドと伸びやかな歌声。この人たちの音楽をもっと聴きたいという衝動に駆られ、翌日には手に入れたアルバムをテープにダビングして擦り切れるほど聴いていた。
ライブバンドと評される彼らのライブを初めて観たのは、高校生になってからだった。それまで、登下校のときや自室でず〜っと聴いていた曲が目の前で奏でられているのは何だか不思議な感じがした。
何より不思議なら感覚に陥ったのは、ステージ上から私たち観客に向けたこの言葉を聞いたときだった。
「どうもありがとう」
特別な言葉じゃない。特別なシチュエーションでもない。他のライブでも当たり前のようにある光景。でも、このときの私にはなぜかとても特別な響きに感じられた。ありがとうという言葉が心の奥まで真っ直ぐ届いて、内側でじんわりと溶け出していくような、そんな感覚だった。そしてその感覚は、彼らのライブを観るたびに必ずおとずれた。
どうしてだろう?
どうしてあの「ありがとう」だけ特別なんだろう?
そんな疑問を抱いたまま、気がつけば干支2周りくらいしたころ、ふとこんなことを思った。
「言葉もシチュエーションも特別でないのなら、彼の存在そのものが私にとって特別なのではないか」と。
すると、驚くほど気持ちが楽になった。
これが正解かどうかは定かではないが、
少なくとも私にとっては大切な気づきだった。
神様、私にとって特別な存在であるこの人と、
10代最初の頃に出会わせてくれてありがとう。
もしも20代、30代になって出会ったとしたら、
この想いには未だ至っていないと思うから。
私が世界で一番恋慕うあの人がこれからも変わらず、
いつも何処かで誰かのためにギター弾いたり歌ったり長々喋ったりで3時間越えが通常運転のライブを続けられますように。
そして、彼と彼が大切に想う人たちが
みんな笑顔で幸せでありますように。