昨日の続きを書きたかったけれど、書けなかった。文章には正解がないから、何が正しいのか分からなくなって、書いて消して、書いて消しての繰り返し。
もはや、何でも正しいと信じられたらいいのだが。
夜空を見上げても、ひたすらに曇ってやがった。
文章を書くのって難しいね。でも、楽しい。
楽しけりゃ、それでいいじゃんね。
今日は瞼の裏に星空を描いて寝るとする。
『弟の誕生日』
4月4日。今日はルイの誕生日だ。
プレゼントは用意できていない。
だって思い出したのは、ついさっき寝ぼけ眼で見たカレンダーに、でかでかと"ルイの誕生日!!"と書いてあったからだ。
カレンダーなんていつも見ないが、偶然にも、今いる洗面台の歯ブラシと並んで置いてあったのが、目に入ったのだ。
偶然……まさか誕生日の呪いにより、カレンダーが意思を持って……!?
なんて……、あり得ないだろうから、この狭い部屋に二人で住んでいる以上、おそらく、いや確実にルイの仕業だな。
何か、強いメッセージ性を感じる……。
「弟の誕生日くらい覚えろっ!」って毎年言われてから気付く私に、待っているだけではダメと踏んだか。
悔しいが、正しい判断だ。だけど、直接言ってこないのは、お金のことでも気にしてるのか……。
気を使ってるのか、使ってないのか分からんな。
さすがの私も、誕生日くらいはパーっと使ってやるのに……、なんて毎年誕生日を忘れるやつが言えたもんじゃないが。
そういえば、ルイは今年で何歳になるんだっけ。
私が今14で、ルイが5個下、私の方が誕生日遅いから……10歳か。
うん。なぜか良いものを買ってやらないといけない気がする。おそらく、10という切りのいい数字のせいだな。
うーん、いくらまでなら出せるかな……。
数秒考え── 決めた。
よし! 今日は大胆に行こう!
考え込んでいて、全く進んでいなかった歯磨きを大急ぎで終わらせ、ルイが寝ていることを確認し、引き出しの奥底から封筒を取り出す。
とても分厚い封筒。一万エンと書かれた札がおおよそ500枚。貯め始めてから、5年が経つ。
目標まで、あと半分……。
本当は使っちゃいけないんだけど、今日は特別。そこから5枚抜き出し、丁寧に財布へと入れる。そして封筒をまた引き出しの奥底へとねじ込んだ。
後ろを振り返り、二段ベッドの上段を見ると、ルイがまだ気持ちよさそうに寝息を立てていた。
私がじっと見ていると、寝返りを打って壁の方を向いてしまった。
ちらと時計を確認する、7時12分だった。いつもなら、ルイは起きている時間だ。
寝てるなら、このままサプライズプレゼントを買いに行ってもいいけど……。ルイの欲しいもの、分からないしな。去年買ってやったでっかい帽子も、全然使ってない気がするし……。似合うんだけどな、あれ。
仕方ない、起こすか。
二段ベッドの階段を慎重に上がり、ルイに跨がった。普通に起こすのも味気ない、なんかイタズラしちゃおうかなー?
おっと、かなり気持ちの悪い笑みを漏らしてしまった。これはただ寝てるから起こすだけ。何もやましいことはない。
しかし考えてみれば、いつもルイの方が少しばかり早く起きるので、寝ているところを起こすなんてのは、滅多になかった。これは、好機。
ほっぺつねるか。
「おきろーー。あさだぞーー」
両手でルイの両頬をつまみ、引っ張った。
起きてる時はやらせてくれないからな、ルイのほっぺは柔らかくて気持ちいいのだ。
「痛い! 痛い! 痛い!」
強く引っ張りすぎたか。いかんいかん、楽しくなるとつい加減がわからなくなる悪い癖が。
ん!? 反撃が来る! 避けきれない!!
予想外の反撃に、そのまま背中からベッドに倒れ込んだ。
くそっーー! もっと触りたかったのに、強くつねりすぎたか! しかもこいつ、寝てるのに私のみぞおち目掛けて、正確に反撃してきやがった。
ほっぺを触るなら、それ相応の対価が必要ということか!
「出掛けるよ、準備して」
一発KOされた私は、ベッドの上でもがき苦しみながらも、声だけは平静を装っていった。
「もっとマシな起こし方があるだろ! 加減を知らないんだよ! ハルは!」
起きたばかりだというのに、口の回るやつだ。ルイは謝ると調子に乗るので、怒っている時は無視一択。まあ今回は私が全面的に悪いので、申し訳なさそうな雰囲気だけ出しておく。
その後も何かと「Tシャツ脱ぎ捨てるな」とか「牛乳飲んだら冷蔵庫入れろ」とかぐちぐち言ってきたが、右から左に流して外出の支度を進めた。
準備もあらかた済み、文句を言う口がおさまってきたところで、今日の外出の目的をいう。
「今日はルイの誕生日プレゼント、買いに行くから。何か欲しいものある?」
「え! 覚えててくれたの!? 嬉しい!」
ルイは屈託のない笑顔で返して来る。ええい、白々しいやつめ。仕込まれたカレンダーを見て思い出したんだよ。
「とりあえずアルド商店街いくから、欲しいもの決めといてね」
「あそこ高いよ? いいの?」
そう、アルド商店街は高級で有名、普段行くことはないが……。
「今日は特別な日だから」
弟の誕生日くらい、いいよね。
「うん!」
元気いっぱいの返事とともに、ルイの手を取って、玄関の扉を開いた。
── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ──
思ったより、長く書いてしまったので続きは後で書きます。お題回収できてないので……。
読んでくれた方ありがとうございます。
あまり上手な文章ではないですが、気に入ってくれたら幸いです、気に入らなくてもいいです。
また書きます。
「一つだけ! 一つだけだからさ!」
隣から聞こえてくる声を無視しながら、ソーダ味のグミが入った袋を逆さにして、残り全部をほおばった。
「もう全部食べちゃった」
グミでいっぱいの口でいってやると、ルイは「ちぇっ」と小さく舌打ちをした。そんなに欲しいなら自分で買えってんだ。まあ、一つだけすらあげない私も私だけど。
甘いな……。一気食いしたことに、早速後悔する。
「ハルはいっつもそうだよね、頑固でいじわる」
頑固でいじわる……。
自分でもわかっているつもりだったが、いざ他人にいわれてみるとムカつくな。
ん?
一つグミが残ってる、袋の底で引っかかってやがった。
「……」
そうだな……。たまには、あげてみるか……。
ちらとルイの顔を伺うと、口を尖らせて不満を全力で表現してやがった。たった一つのグミのためにそんなに不機嫌になれるもんかね。
まあ仕方ない。あげてやる、一つだけ。
「あ」
"あ"っていえば、釣られて"あ"っていうだろ。
「あ?」
まんまと釣られ開いた口にグミを放り込んだ。
「一つだけ……な、……美味いか?」
我ながら不器用極まりないな。
ただ、ルイは驚きつつも、味わって食べているようだ。
「美味しいよ! ありがと、ハル!」
満面の笑みでいうから、少し照れくさかった。
でも……。
グミ一つだけで、こんなに喜んでくれるのか……。
次から"一つだけ"でも食わせてやるか。