見つからぬ"生きる意味"を
探してまた今日を生きる
『言葉にできない友人の話』
私の友人は『言葉にできない』という表現を、使いすぎだ。今日だけで、三回は聞いた。パフェを食べて一回、桜をみて二回、豪雨に打たれ三回。
講釈垂れるつもりはなかったが、今は絶賛雨宿り中、そろそろ話題もつき暇になってきたので、話に出してみる事にした。
「実際、言葉にできないものなんて、一つしかないと思うんだ」
「どしたの急に?」
「いや、そういう感情表現ってのは分かるよ? でもさ、何回も使うものじゃなくね? 使用限度とっくに超えてるよ?」
「あー、うん……確かに……」
「もはや、ただ感情を言葉に変換できない奴にしか思えんし」
「辛辣やな……」
「使うとしても、時と場合と適切な使い方をだな」
「まあそうなるかー。あの……言い訳していい?」
「言い訳?」
「実はそれ、お前に言ってたわけじゃなくて、幽霊に言ってたんだよね……」
「幽霊……そういえば霊感あるっていってたな」
「ここ最近な、ある霊に付き纏われててさ、なんかことあるごとに感想求めてくんねん」
「はあ……」
「んで、めんどいからさ、適当に無視してたんだけど、そしたらもっと粘着してきやがって」
「うえぇ……」
「しょうがないから、一言言ってやったの、ポッキー食った感想、美味いって。そしたらよ……、『言葉が足らん!』って、感想にいちゃもんつけてきやがったんよ」
「だるぅ……」
「あ、ちなみにその幽霊は禿げたクソジジイな。それで、その後も事あるごとにうるさいから、色々考えたわけ」
「その結果『言葉にできない』を思いついたと?」
「そそ、これが大成功で、どうやら想像力が有り余ってるらしくて、勝手に解釈しやがんのよ。何回使っても、ジジイには響くっぽくて、つい使いまくっちまった……」
「なんか、ごめんな……何も知らずに講釈垂れてしまって……」
「いいよ、いいよ……言われて気づいたし。むしろ感謝だわ。そんな言葉にできないものが、あってたまるかって話よな」
「そうね」
「あ、そうだ、結局何だったの? 一つしかない言葉にできないものって」
「ああ、死ぬ瞬間の気持ちだよ。ほら、死人に口なしって言うじゃん?」
「なるほど……確かに」
「あれ? でもこれ、幽霊に聞けるんじゃね?」
「あ」
友人はすぐさま虚空に向かって『おいジジイ! 死ぬ瞬間どんなだった?』と、問い出した。
「何て?」
「『クソ気持ちいい』だって、なんか損したわ」
完
四六時中あることに思考を独占されることがある。
あることとは、新しいものだったり、古いものだったり、人によっては一つだったり、たくさんあったりする。
思考を独占されているときは、周りのことなどどうでもよくなって、生活すらも疎かになる。
それはひたすらに楽しくて、楽しくて、ずっと続いて欲しいと、あなたは願っている。
そう、熱中しているのである。
だがそれは、いつしか消えて無くなって、もうあなたにとって、どうでもいいものとなる。
何が理由かは分からない、時の流れに抗えなかったからなのか、どこかで繋ぎ止めていた糸が切れたのか、はたまた切られたのか。
でもどこかに、その時の熱は残っている。
ふと思い出す、熱中していた、あの頃の自分。
とても愛おしく思えて、あの頃の記憶が蘇る。
また熱中するのもいいだろう。
一度熱中したものは
これからも、ずっと、
あなたの中に生き続ける。
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ずっと何かに、熱中していたいなあ。
沈む夕日に、絡む赤色、滲む夜。
この声が太陽にも届くかな
知らねえけれど
さよーならまたあした!
『その瞳は』
その瞳は悲哀で満ちて冷たく儚く、
そして何よりも綺麗だった。
その瞳は一つだけ、薄ぼんやりとした、夕焼け色。
その瞳の持ち主は、命を持たぬ、鉄の塊。
血に濡れた――殺戮兵器。
その瞳が見据えるのは、私。
その瞳が、ひどく揺らめいた。
銃口が私の額に当てられる。
死などもはやどうでもいい。
その瞳がひどく悲しくて、かなしくて――
赤く染まったそのからだを、
訳も分からず抱きしめた。
あとは散々泣き喚いた、
何度も何度も
「ごめんね」
「ごめんね」
ってひたすらに。
どうしたらいいのか――分からなかった。
額にあった銃口は
いつの間にか
私の背にそっと添えられていて
それは、とても、とても暖かかった――。