路傍の礫

Open App

「一つだけ! 一つだけだからさ!」
 隣から聞こえてくる声を無視しながら、ソーダ味のグミが入った袋を逆さにして、残り全部をほおばった。
「もう全部食べちゃった」
 グミでいっぱいの口でいってやると、ルイは「ちぇっ」と小さく舌打ちをした。そんなに欲しいなら自分で買えってんだ。まあ、一つだけすらあげない私も私だけど。
 甘いな……。一気食いしたことに、早速後悔する。
「ハルはいっつもそうだよね、頑固でいじわる」
 頑固でいじわる……。
 自分でもわかっているつもりだったが、いざ他人にいわれてみるとムカつくな。
 ん?
 一つグミが残ってる、袋の底で引っかかってやがった。
「……」
 そうだな……。たまには、あげてみるか……。
 ちらとルイの顔を伺うと、口を尖らせて不満を全力で表現してやがった。たった一つのグミのためにそんなに不機嫌になれるもんかね。
 まあ仕方ない。あげてやる、一つだけ。
「あ」
 "あ"っていえば、釣られて"あ"っていうだろ。
「あ?」
 まんまと釣られ開いた口にグミを放り込んだ。
「一つだけ……な、……美味いか?」
 我ながら不器用極まりないな。
 ただ、ルイは驚きつつも、味わって食べているようだ。
「美味しいよ! ありがと、ハル!」
 満面の笑みでいうから、少し照れくさかった。
 でも……。
 グミ一つだけで、こんなに喜んでくれるのか……。
 
 次から"一つだけ"でも食わせてやるか。
 

4/3/2024, 2:33:03 PM