彼女の唇ならば、口づけでもキスでも勿論接吻でもなく「Kiss」と表現するのが一番しっくりくる気がした。
大人っぽくて、洗練されていて、どことなく異国の雰囲気もあって、アルファベットの表記がぴったりだと思ったのだ。
だから、そんな彼女と初めて「Kiss」できたとき、彼女の顔があまりに赤かったのには心底驚かされた。
まして、初めてなんて言われてしまった。
どうすりゃいいんだ。
とりあえず、確認のため、もう一回しておこうか。
お題『Kiss』
1000年先も、この街は存在しているだろうか。
そのままの姿ではないはずだ。
それでも、地名だけでも残っていて欲しいと思う。
父も母も、そして自分もパートナーも愛した場所だから。
1000年先も、この街を愛してくれる人はいるだろうか。
1000年先も、この国は存在してくれているだろうか。
1000年先も、人類は生きていてくれるだろうか。
せめて、この美しい街の名を理解してくれる生命がいて欲しいと心から願う。
お題『1000年先も』
仕事からの帰り道、閉店間際のホームセンターの店先にその花の苗を見つけた。
まだ蕾すらない小さな苗なのに、どうにも呼ばれたような気がしてたまらず、夕食代を切り詰めてその苗を買うことにした。
春告げ花でもあるその花は、うたた寝が気持ちよくなる時期になってようやく小さな花を咲かせた。
店の見本の写真では青かったと記憶していたが、咲いた花の色は白。
白もあるのだろうかと何気なくネットで調べていると、ある項目に不意打ちを食らった。
白の場合の花言葉「わたしを忘れないで」
今になって気が付いた。
あの夜、この花に呼ばれた訳を。
そうか。
自分はまだきみを忘れなくていいんだな。
その声なき言葉に答えるように、窓辺の勿忘草はさわさわとその白い花を揺らした。
お題『勿忘草』
ブランコにあまりいい思い出のない人は、どのくらいいるだろうか。
高い所が苦手だからとか、ブランコから誤って落ちてトラウマになったからとか。
自分の理由は後者寄りだ。
誤って落ちたではなく、誤って「落ちかけた」
尻を滑らせて、それでも鎖から手を離さなかったせいで、膝立ちの状態になってしまった。
そして、そのまま足裏ではなく両膝でブランコを止める羽目になった。
八歳のときのことだ。
地面と激しく擦れ合った両膝はボロボロ。
全く使い物にならず、暫く介助が必要な状態だった。
今思い出しても痛い。
トラウマになるには十分である。
なお両膝の傷は未だに残っている。
大分薄くはなったが、ブランコのトラウマがなくならない限り、この傷も残り続けるだろう。
果たして消える日はくるのか。
今はまだ断言できそうにない。
お題『ブランコ』
まさか最後の最後が山登りになるとは思わなかった。
事前に地図で場所は確認していた。
一キロメートルはない距離だからと簡単に考えていた。
まさか目的地が小さいながら急勾配の山の上とは。
高低差のことを完全に失念していた。
二次元の地図の罠に嵌ってしまった。
平面では三次元の地形までは掴めないのだ。
やってしまった。
ここまで来たなら、もう登るしかない。
自分で自分にキレながらも、息を切らせて登ること小一時間。
日帰り一人旅、その旅路の果ては、瀬戸内海を一望できる山の上にある戦争遺跡だった。
コンクリート造りの廃墟を前に、息を何とか整えてから立ち尽くす。
ここだ。
ここであの人は、曽祖父は亡くなったのだ。
自分のルーツを辿る旅。
その一つのゴールがここにあった。
お題『旅路の果てに』