昔住んでいた家の隣には真っ白な長毛種の猫がいた。
その猫はいつも真っ白で、たまに飼い主さんと
散歩をして過ごしていた。
母は犬も猫も好きで、よく挨拶していた。
当時幼い自分は犬猫が怖くて近寄れなくて、
いつも母の後ろに隠れていた。
ある日引っ越してしまって、
二度とあの白くて長い毛は見ていない。
飼い猫を見ては思い出す、白猫のゆき。
人生の分岐点で選択をすると、あの選択をすれば、
こんなときこうすればなんて終わったことを考える。
どれだけ考えてもあの選択が最良だったのか
私にはわからない。
多分、他の選択をしても私には最良の選択など
わからないだろう。
私には今の選択肢をいいものとして考えるしかない。
昔は暗い場所が怖かった。
恐ろしいものが潜んでいて、
暗闇からこちらを覗いているように思えたからだ。
だが、気づいた時には暗い場所も平気になった。
昔は怖かった中が全く見えない暗い部屋も、
恐ろしいどころか入れるようになった。
自分が大人に成長したように感じた。
大人になって嬉しいような、悲しいような。
なんとも言えぬ感情が胸に広がった。
近所の小さいながらも美しい家には、
美しいハニーブランドの髪を持つ少女が住んでいた。
お姫様のような彼女は、毎日昼頃に庭で紅茶の匂いを
漂わせながら菓子を食べていた。
彼女に憧れ、話しかけることを決意した。
昼頃、庭先に出ている彼女に声をかけた。
「こんにちは…!」
彼女は微笑み、「こんにちは」と返してくれた。
それから私は毎日彼女が紅茶の匂いを漂わせた時に
挨拶をしていた。
ある日から、紅茶の匂いがしなくなった。
彼女の隣人に聞くと、持病が悪化し、
そのまま亡くなったことを教えてもらった。
こんな何も無い街に来ていたのも療養の為だったのか、
私は彼女の邪魔をしたのか、
そう考えると夜も眠れなかった。
数日後、彼女の家は更地になった。
もうこの家からは、紅茶の匂いはしなくなった。