今日はいい夫婦の日だ。
だから妻は張り切っていた。
部屋をピカピカにして、花も飾って普段より豪華に
夫の好物を作る。
そして玄関近くで夫の帰りを待つ。
夫が入ってきたらクラッカーを使おうとしていた。
だが妻は知らない。
夫はケーキと花と妻の欲しがっていたぬいぐるみを
持って帰ってきたこと。
まったく、いい夫婦だこと。
わからないことが多すぎて、何をすればいいのか
分からない。
どうしたらいいの?ねぇ、どうしたらいいの?
分からないよ、なんで誰も教えてくれないの?
皆私の事を睨んで蔑んでいるようにしか思えない。
どうしたらいいの?なんで怒られるの?
皆次々にこう言う。
不細工、バカ、ゴミ、話し方が変。
社会不適合者、気持ち悪い…って。
どうしたらいいの?どうしたらいいの?
何もわからないよ。
家の掃除していると古い箱が出てきた。
なんの箱だろうか、と開けると簪や櫛、リボンが
出てきた。すべて古いもので心当たりがない。
家にいた祖父に見せると懐かしそうに箱を撫でた。
「おじいちゃん、それ何?」
そう聞くと祖父は
「これはね、おばあちゃんに若い頃プレゼントした
ものなんだよ」
誕生日プレゼントの櫛、結婚記念日の簪、
母を産んだ時に祖母に贈ったリボン。
「こんなとこにあったなんてなぁ」
そう言って祖父は嬉しそうな顔をした。
今年は祖母の三回忌。
祖母の宝物を持って墓参りに行こうか。
今日は誕生日。
キャンドルに火を灯して息で消す。
誰も祝ってくれない寂しい誕生日。
プレゼントは求めてないけど、おめでとうの一言は
くれてもいいんじゃない?
暗い部屋でケーキを食べて眠った一日だった。
どうでもいいけど今日誕生日です。
誰か祝ってください。
遊園地、水族館、ショッピングモール。
近所の服屋、本屋、公園。
すべて私の大切な想い出。
お願いだから、消えないで。
私の記憶から消えないで。
記憶の私よりも老いていく自分が怖い。
私が変わって消えてしまうようで