あの頃のあなたと私にはもう戻りたくない。
戻れるんなら、「二人で食事しませんか?」と連絡をもらったあの日より前に戻りたい。
その頃のバカな私と無知なあなたに戻って、
深く関わろうともせず、
一緒に暮らしたいとも思わず、
子を生そうとも思わず、
SNSの中で互いの健康を知る程度の存在に戻れたら、
ちょうどいいのかもしれない。
アラフォーとなった今、「柔らかい雨」というものが若干都合悪く感じるようになってきた。
強い雨降りの日には何故か感じない、体にこれでもかとまとわりつく湿度の暴力…
雨上がりにも心地よくグッと下がってくれない気温…
気圧が右往左往すると、一緒に右往左往するメンタリティと頭痛の波…
ああ、しとしと降る雨音を聴きながら沸き上がるアンニュイを楽しむ、乙女の時代は終わってしまったのか。
あの頃の心、そして体(調)に戻りたや……。
恋の始まりはいつも健康から、と私は肝に銘じている。
心も体も健康じゃないと、いい恋は始められない!と勝手に思ってるのだ。
『え、それじゃ王道シチュエーションの「風邪の看病をしてくれた相手に惚れちゃう」やつは?
看病してもらうほどの風邪なんだから、健康とは程遠いと思うけど…』
フフフ、ここからは完全に持論だ。
その時に生まれた恋のような感情は、実は恋ではない!
しんどい時に優しく助けてくれて、嬉しかっただけだ。
『だって、その時に初めて相手の優しさに気がついて、恋に落ちるってことはないの?』
その場合、看病される前にすでに恋は始まりかけていると言っていい。
なぜならあなたはもうすでに、お相手の優しさに気付いていたはずだ。
決して意外な優しさではなく、普段からお相手の優しい眼差しを感じていたに違いない。
というわけで、諸君。
今後は不健康な時に抱いた恋慕は、一旦考え直すように。
そしてこんな暴論言ってるやつがいたなー、と思い出してくれると、今日これを書いた甲斐がある。
ちなみにそいつはたまげるほど健康にも関わらず、恋がなかなか始まってくれない…。
追っかけてくる。
子供が、私を。
5歳の息子が毎日、私の後をついて歩いている。
後追いにしては少し遅い気がするが、今まで後追いされた記憶があまりないので、彼にとっては今がその時期だろうか。
と考えて、それは当然だなと思い至る。
息子が赤ちゃんだったとき、私は夫との関係が悪く、精神を病んでいた。
一番ひどい時期は育児もまともに出来ず、息子に笑いかけることも少なかった。
後を追っても、構ってくれない母だったことだろう。
後追いされた記憶がなくて当然だ。
一番後を追いたい時期に、追えなくしてしまっていた私のせいだ。
夫と離れ、私の心が回復して、やっと息子に愛を思い切り伝えられるようになったとき、息子はそれを激しく拒否した。
息子にとっては起こるべくして起きた、自然な混乱状態だったと思う。
数年の間、今度は私が息子を追っていた。
親として再び自然に信頼してもらえるように、考えつくあらゆる方法を試してもがいていた。
息子への申し訳なさで、日々押しつぶされそうだった。
そして今。
息子が楽しそうに私の背中を追いかける。
そんな息子が目に入るたび、笑顔で力いっぱい抱きとめるのだ。
母になるのが遅すぎた私と、それを受け入れてくれた息子。
幼い彼との悲しいすれ違いは、ようやく終わった。
「おかあさん、なんで泣いてるの?」
私の涙に勘づいた、5歳息子の鋭い眼差し。
とっさに
「〇〇くんといられて嬉しいからだよ」
と言った。
立派な嘘だ。
本当は、障害のある息子の激しい癇癪に疲れ切って、思わず涙した。
「お母さんが嬉しくて泣くのは初めてだね」
そう言って不思議そうに笑うので、私の感情は更にぐちゃぐちゃになった。
子供のせいにしたくない母親の私と、それを隠しきれなかった幼い私。そのどちらをも、息子が交互に見つめてくる。
ーーお母さん、隠しても僕にはわかるよ。
我が子の純粋な眼差しが、さっきよりずっと鋭く、心の奥に刺さってくる気がした。