向かい合わせ
小さい頃、僕たちは一緒に座る時いつも隣り合って図鑑やゲームを覗き込んでいた。
それから十年とちょっとの時間が経って、いつの間にか僕たちは大人みたいに身支度をして、一杯が漫画一冊よりも高いカフェラテを前に、お洒落なカフェで向かい合って座っている。
「…なんか緊張する…手が震えそう…。」
「ええ?そんなに?あはは…そりゃファミレスとは違うけど緊張しなくていいって。」
二歳上の彼はいつも僕より少し先を澄まして歩いてる。
だけど、振り返らずに行ってしまう訳じゃなくて、こうやって僕を連れてきて向かい合って座ってくれる内は、置いていかれはしないと思って良いのだろうか。
裏返し
「愛情の裏返しとか言うけど、いや普通に表面の愛情くださいって思うんだよね。」
「あはは。それはそう。」
恥ずかしいとか言ってはいられない。この人は僕の愛を信じてくれているのだから。
誇らしさ
あなたが誇らしい。
そう言うのは簡単だし、心から思うのだって難しいことではないだろう。
一番難しいのは、自分が誇らしい。そう、心から思うこと。
きちんと自分を誇っている大人は格好良い。そう感じているからこそ二十代までのカウントダウンに焦ってる。
勉強をひたすらする。褒められることかもしれないけど、正しいことだろうか。真面目なだけで自分を誇れる大人になれるだろうか。
僕にはまだ分からない。
「…分からないって言ってる間に人生終わっちゃいそう。」
ベッドに沈んで溢した低い声は反響もせずに宙に消えた。
夜の海
「これが南半球の星か〜。なんか分かる星座とかあんの?」
「いや…全然…調べる?」
「なんだよ天文学部…いい、ただ眺めるだけでいいよ。」
「あはは…うちは夜集まってお菓子食べながら星見る会って感じだったから…。」
オーストラリアの夜の海辺を二人で歩く。異国の海は透き通っていて、砂浜の砂は柔らかい。
海の傍で育たなかった僕たちにとって真っ直ぐに続くこの海の広さは想像を上回るほどだ。
日本の夏はオーストラリアの冬だ。陽が落ちるのは早いけど、気温は涼しいくらいで寒くはない。
短期留学という名目で二人でオーストラリアで過ごして三日目。ようやく夜は自由時間になり、それぞれのホームステイ先から抜け出してきた。
「…夜の海なんて怖いと思ってたけど…街の灯りが後ろにあるとそうでもないね。」
「うん…一人じゃないし、船も出てるね。冬なのに寒くないってすごい。」
「…でも俺は冬は寒い方がいいな。マフラーでぐるぐる巻きになって、おいしくココアが飲みたい。」
後ろから手を握って引き寄せられ、僕は大人しく晶に後ろから抱き締められた。このスキンシップが最近想いを伝えた僕への配慮なのか、晶の本意なのか、分からない。幸い黙り込んでも波の音が押しては引いていく。
海は全て分かっているよと優しく僕に語りかけているようだった。
「…寒くなったら怜のガトーショコラが食べたい。」
「ふふ…いいよ。作ってあげる。」
肩に顔をくっつけたまま晶がぼそぼそと言った。なんだ、甘えてるだけかと分かって少し笑う。
「…寝転がって星見る?」
「うん、見よう。」
夜の海は僕たちを包むように波打って、星空は嬉しげに僕たちを見守るように瞬いていた。
麦わら帽子
麦わら帽子にリネンのシャツ。
君の夏の表情を彩るのはそんな組み合わせだ。
世界で一番麦わら帽子が似合うね、そう告げると揶揄われたと思ったのか大きい帽子じゃないと眩しいだけ、と麦わら帽子を深く被ってしまった。
本心なんだけどな。