蝶よ花よ
大事に大事に育てられたんでしょう
全て持って生まれたあなた
私はあなたの毒の花になりましょう
さぁ、この蜜を吸って
太陽
一緒に育った俺とあの子は、似ているようで似ていない。
俺の髪は真っ黒で、あの子の髪は赤毛みたいな茶色だ。
俺の肌は薄くて、日光を浴びると赤くなる。あの子の肌はしなやかで、日光を浴びるとそばかすが煌めく。
太陽の下のあの子。伏せた睫毛が光に透ける。柔らかな茶髪は夕焼け色に染まって、より特別な横顔になる。
俺はいつからこんなにロマンチストになっちゃったのかな。
あの子と長くいるからかな。シャイなくせにロマンチックな例えをするあの子。たまには俺もそんな風に言葉を紡ごう。
あの子は俺の暮れない夕焼け。
つまらないことでも
「それで俺は…って、すごい俺自分の話してるね、ごめん、」
「いいよ、晶が話すの聞いてると…なんだろ。力緩むから。」
「つまんなくて眠くなるって?」
「ち〜がうよ、はは…つまんない話でも安心するってこと。」
「あ〜…まあそれはそれで愛か〜。」
「まあ〜愛かなぁ。」
「そこは断言してくれよぉ。」
「はいはい。愛愛。」
「二回言っちゃだめなのよ…。」
どんなつまらない会話でも、切り上げようとは思わないのは
君だから。
目が覚めるまでに
朝5時の空気は一日で一番柔らかいに違いない。
いつもより早く目が覚めて、隣から聞こえる規則的な寝息を妨げないようにそろりそろりとベッドを出た。
慎重に鍵を開け、ベランダに出る。空は炭酸の抜けたラムネみたいな色をしていて、巻かれるのを待つわたあめみたいな雲が漂っている。
なんて平和な夜明けだろう。あと少しで烈火の如く陽射しが降り注ぐとは思えない。
涼しい内にコーヒーを淹れよう。思い立ってベランダから上がる。
今ドリップして冷蔵庫に入れれば、まだ夢の中のあの子が目覚めるまでには美味しいアイスコーヒーになるだろう。
病室
ここから見る夏は固くてくすんでいる。
早く連れ出してほしい。どこに?わからない。
足に血液の循環を促す機械を着けられたまま漠然と思う。
あなたのせいではないのに、あなたは申し訳なさそうにいつも謝る。
あなたと宿した奇跡。次こそは産声を上げるかしら。
いつからか期待は抱けなくなった。
窓から見える花壇の向日葵は、俯いたきり動かない。