とわ

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夜の海


「これが南半球の星か〜。なんか分かる星座とかあんの?」
「いや…全然…調べる?」
「なんだよ天文学部…いい、ただ眺めるだけでいいよ。」
「あはは…うちは夜集まってお菓子食べながら星見る会って感じだったから…。」
オーストラリアの夜の海辺を二人で歩く。異国の海は透き通っていて、砂浜の砂は柔らかい。
海の傍で育たなかった僕たちにとって真っ直ぐに続くこの海の広さは想像を上回るほどだ。
日本の夏はオーストラリアの冬だ。陽が落ちるのは早いけど、気温は涼しいくらいで寒くはない。
短期留学という名目で二人でオーストラリアで過ごして三日目。ようやく夜は自由時間になり、それぞれのホームステイ先から抜け出してきた。
「…夜の海なんて怖いと思ってたけど…街の灯りが後ろにあるとそうでもないね。」
「うん…一人じゃないし、船も出てるね。冬なのに寒くないってすごい。」
「…でも俺は冬は寒い方がいいな。マフラーでぐるぐる巻きになって、おいしくココアが飲みたい。」
後ろから手を握って引き寄せられ、僕は大人しく晶に後ろから抱き締められた。このスキンシップが最近想いを伝えた僕への配慮なのか、晶の本意なのか、分からない。幸い黙り込んでも波の音が押しては引いていく。
海は全て分かっているよと優しく僕に語りかけているようだった。
「…寒くなったら怜のガトーショコラが食べたい。」
「ふふ…いいよ。作ってあげる。」
肩に顔をくっつけたまま晶がぼそぼそと言った。なんだ、甘えてるだけかと分かって少し笑う。
「…寝転がって星見る?」
「うん、見よう。」
夜の海は僕たちを包むように波打って、星空は嬉しげに僕たちを見守るように瞬いていた。

8/16/2023, 3:18:28 AM