「この人がやったんだ!」
静かな教室に僕の声がこだました。
沈黙が続いたかと思うと。
ガラの悪いやつが机を蹴る。
「何言ってんだてめぇ!!」
「ヒィッ」
怯むな負けるものか。今日こそは言ってやる。
僕は震える拳を握り直して、キッと前を向いて言った。
「ぼ、僕は知っている。幸村くんが誰よりも朝早く来て、金魚に餌をやっていることを、みんなが寒さに凍えないように毎日ヒーターを焚いておいてくれていることを。たっ、確かに口が悪いかもしれない。誤解されやすいかもしれない。でも彼は彼なんだ。1面だけで彼を知った気になって悪口を言うのは辞めてくれ!」
、、、何あれ、イキっててださ
先程まで静かだった教室が嘘のように、みんなが僕に後ろ指を指す。
針のむしろとはこのようなことを言うのだろう。
、、、でもスッキリした。ようやく言ってやった。
後悔はない。
でも、やっぱり変えられないんだ、悔しいな。
俯いていると、後ろからおい、と声をかけられた。
恐る恐る、後ろを見ると、そこには幸村くんの姿があった。
「ありがとよ」
そう言うとガラの悪いヤツ元言い幸村くんは、少し照れくさそうに鼻をかいて笑った。
小さな勇気
この世界には何十億の人がいるけど、一生に会えるの
はたったの3万人しかいない。
この世は随分と生きやすくなったね。
今や同性との恋愛を隠す必要なんてない。
好きな人を自らが選べる時代。
でも、だからこそ思う。
『運命』ってなんだろうと。
もしかしたら僕の運命の人は一生に会える3万人以外なのかもしれない。
なんならもう、ここにはいない人なのかもしれない。
勘違いしないで、僕は後悔をしているわけじゃない。
僕は妥協して君を選んだ訳じゃない。
男とか女とかそんなのじゃなく、
僕は君だから好きになったんだよ。
ただひとりの君へ
私の世界は小さく、窮屈だ。
抜け出したいと思っても、硬くて冷たくて、
助けを求めてみても、
私の声は届くことなく消えてしまう。
「ねぇ、こっちにおいでよ」
小さな私が無邪気に笑いかける。
出られやしないとわかってるくせに。
いつしか助けを乞うことはなくなった。
どうせ叫んでも無駄なんだから。
静かで冷たくて暗いこの世界は、気が狂いそうだった。
「ねぇ、こっちにおいで」
顔にモヤがかかった少年が私の手を引く。
思い出しそうで思い出せない。
でも、この手の温もりを私は知っている。
私の声は届かなかったくせに、固く閉ざされて出られないはずだったのに、少年はいとも簡単にここから連れ出してしまう。
「ねぇ、世界は広いよ」
少年はそう言って笑顔を向ける。
あぁ、君だったのか、私を連れ出してくれたのは、
私もまだ捨てたもんじゃないな。
私は私を諦めない。
かつて君がしてくれたように
私も手を差し伸べてみようかな。
はしゃぐ小学生を見て懐かしくなる。
あぁ、俺にもこんな時あったんだなぁ。
いつの間にかすっかり大人になってしまって重荷が増えた。
逃げ出したい。
そう思う俺とは裏腹に時は止ってくれない。
今日も重い体を引きずって働きコンビニ飯をかき込む。
唯一楽しいと言えるのは夜景を肴に酒を飲むことだけ。
「俺、なんのために生きてるんだろう」
ぼーっと窓の外を眺めていると。
強い風が吹き抜ける。
カーテンが舞い風景が揺れる。
「なんだ、これ」
涙が頬を伝って落ちる。
「なんで置いていくんだよ、、、」
君を迎えに行く、そう約束したのに、一向に姿を確認出来ない。
どうにも彼女の言葉が引っかかる。
私を探さないでと、
僕は本当ならこんな場所にふさわしくないのかもしれない。そして君にも、
でもどうしても諦めることが出来なくて、つい姿を追ってしまう。
見つけた!
姿は遠いが間違いなく君だ。
そして、どうやら彼女も僕に気づいたようだ。
僕は、駆け出す。
しかし君は踊るようにその場から抜け出し、僕の方を見ようとはしない。
鐘が鳴る、ついに彼女は見えなくなった。