【突然の君の訪問。】
風が吹く午後、紅茶を飲みながら庭を眺めていた。
無口なトピアリーと向き合いながら、ソファーの上でクラシックを聴く。
そうしていると灰色の君がやってきた。
「調子はどうだい?」
君の訪問はいつも突然だ。
「もうすぐ雨が降りそうだよ」
雨宿りをしにやってきたのかもしれない。
君と私の間には隔たりがあるけれど、それが心地よかった。
灰色の髪を撫でつける君。
私は冷めはじめた紅茶を啜る。
いつの間にか君が私を見ていた。
不思議な瞳だ。
「何にも縛られない気分を教えておくれよ」
そう声を掛けると君は目を細めた。
【雨に佇む】
待っていた。
篠突く雨の中で、あなたの帰りを待っていた。
傘もささず、暖かい雨に打たれながら。
頭上には灰色の分厚い雲が、まるで私の心のように立ち止まっている。
雨は私を慰めることなどなく、体の表面を流れ落ちていくだけだ。
睫毛に雫が溜まっては零れ落ちた。
足元に出来た大きな水溜りは雨だろうか、それとも涙だろうか。
あなたは今日も帰らない。
【私の日記帳】
あなたが店に並べられたわたしを見て、キラキラと目を輝かせていた日の事を覚えている。
あなたが初めてわたしに文字を書いた日の事も、覚えている。
あなたが美味しいものを食べたこと、体重が増えたこと、面白い映画を観たこと、恋をしたこと、親友と喧嘩したこと、繰り返す日々にどうにもたえられなくなって涙を流したことも、全部全部覚えている。
わたしに涙が滲んだ時、ああ、どうかあなたに小さくても可愛い幸せが降り注ぎますようにと願いました。
わたしはあなたを励ましてはあげられないけれど、あなたの心の柔らかいところで生まれた感情というものを受け止めてあげられます。
だから自分と向き合うことだけは、決してやめないでいてほしいのです。
……なんて、私の日記帳がそんな風に想ってくれていたら良いなと思うのである。