【お題:どこまでも続く青い空 20241023】
「すごいな⋯⋯」
その呟きは誰の耳に留まることもなく、大気に消えていく。
それでも呟かずにはいられないのは、きっとこの景色のせいだ。
「来てよかったな⋯⋯」
本当はキャンセルしようと思っていたこの旅行。
でも親友に絶対に行ってこいと言われ、しぶしぶ日本を立った。
一緒に来る予定だった彼女と喧嘩をして別れたのが出発の3日前。
この旅行のために、残業と休日出勤でどうにか仕事を終わらせて心配事もなく日本を旅立てる、そう思っていたところだった。
『やっぱり、ヨーロッパがいいな。お城とかそういうのが見たい。ねぇ、今から変更できないの?』
旅行の打ち合わせを兼ねた食事の席で、そんなことを言われた。
いや、待ってくれ、ヨーロッパにしようかって言った時、普通すぎてつまらない、テレビで見たここに行ってみたい、って言ったの君だよな?
この時点で、少しイラッとしてしまったのは、大人げなかったかもしれない。
やんわりと、今回は大人しく南米旅行にして次にヨーロッパにしよう、と言ってはみたものの⋯⋯。
『今なら変更できるでしょう?パパならすぐOKしてくれるよ?南米とか買い物出来ないし、友達にも全然自慢できないもん。ねぇ、私、ヨーロッパに行きたい』
取引先のお嬢さんだし、若いし、見た目も好みだったというのはある。
初めの頃はわがままも可愛いと思えたけれど、それも度が過ぎるとマイナスでしかない。
最近はそういう事が多くなったし、人を見下すような所も、男をアクセサリーのように扱う所も我慢できなくなっていた。
だからあいつには悪いけど、ここが限界だなと思ってメッセージを送った。
【ゴメン、もう限界。別れる】
すると、すぐ様返事が入った。
【会社のことは気にするな】
これぞ、俺の親友。
俺が女だったら、確実に惚れてるね。
で、今まで貯めた鬱憤を大人の男らしくスマートにぶちまけて、お別れをした。
「12年か?」
学生時代に起業した親友と一緒に働き続けること12年。
休みらしい休みも取らずに、世界中あちこち飛び回ったが、旅行としてプライベートで海外に来るのは初めてだとついさっき気がついた。
彼女とも海外は初で、日程の関係もあってそれまではずっと国内だったからな。
そう考えるとこの旅がすごく貴重なものに思えてくる。
「クスコの街やマチュピチュも良かったけど、コレには敵わないな」
見渡す限りの真っ白な大地に、どこまでも続く青い空。
今は昼だが、夜になるとこの青空が一面の星空に変わるのだという。
ガイドの話では星明かりで自分の影が見れるとか何とか。
うん、それも今から楽しみだ。
そうそう、ウユニ塩湖と言えば鏡張りの景色が有名だが、あちらは運も必要なのだとか。
あの鏡張りの状態になるにはいくつかの条件があって、見るのはなかなか難しいらしい。
地上と上空の両方にどこまでも青い空が続いている状態がみたいのならば、滞在期間を長くしてチャンスを狙えとガイドが言っていた。
そう、聞いてしまったら見たくなるのが人間ってやつだよな。
すぐには無理でも、絶対に見てやるって思ってしまう。
「よし、次は雨季に来よう」
白い大地と青い空の画像を日本にいる親友に送る。
帰国はもう少し先になるが、最高の景色をプレゼントだ。
【今度は俺も連れて行け】
そんなメッセージが返ってきた。
だから⋯⋯。
【任せろ】
おれもあいつも独身だ。
その気になって頑張れば、2人で旅する時間は作れるだろう。
今の世の中リモートワークもできることだし、きっとどうにでもなる。
「んじゃ、もう1回スペイン語、勉強し直すか」
通訳を介さずに地元の人と話せれば、旅はもっと楽しくなりそうだ。
次の目標もできたことだし、さぁ、また頑張るか!
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(´-ι_-`) 行ってみたいね〜。
【お題:衣替え 20241022】
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(´-ι_-`) 夏の方が⋯⋯。
【お題:声が枯れるまで 20241021】
「それでね、薫くんがね、今度一緒に⋯⋯」
「ごめんね、悠斗くん。叶美が泣いてるの。私行かなくちゃ」
「⋯⋯うん、わかったよママ。僕、ひとりで遊んでいるね」
「悠斗くんがいいお兄ちゃんで助かるわ」
本当のママは、僕が2歳の時にお空に行ってしまったんだってパパが言っていた。
でも僕は、本当のママの事はあまり覚えていない。
本当のママの顔は知っている、前にパパが写真をくれたから。
だけど、本当のママの声も手の温かさも僕は覚えていないんだ。
今のママは僕が4歳の時におうちに来た。
パパが新しいママだよって教えてくれた。
本当のママがいなくなってからパパはずっと大変そうだったんだ。
おばあちゃんやお手伝いさんが来てたけど、それでも大変だったと思う。
だから僕はいつもいい子にしてた、そうすればパパが喜んでくれるから。
寂しいとか、パパと遊びたいとか言わないと決めていた。
だって、パパが困った顔をしちゃうから。
パパと今のママとの赤ちゃんができて、パパも今のママも凄く嬉しそうだった。
もちろん僕も嬉しかったよ。
だって妹ができるんだ、お兄ちゃんになるんだからね。
今のママのお腹が大きくなると、お家には今のママのママが来てくれるようになった。
今のママのママは、僕のことはあんまり好きじゃないみたいだった。
ちょっと叩かれたり、ご飯を無しにされたりしたし、幼稚園の送り迎えでは本当のママの悪口を言われたりした。
僕がすごく悲しくなって泣いたりすると、今のママのママはいつも言うんだ。
『泥棒猫の子が』
って。
うーん、泥棒猫って何だろう?僕はパパと本当のママの子供なんだけど?
妹が生まれると、パパも、今のママも、今のママのママもとても嬉しそうだった。
僕もすごく嬉しかったけど、パパがいない時には、僕は妹には触っちゃダメだって言われた。
泥棒菌が移るからって、今のママのママに言われたんだ。
泥棒菌ってなんだろうね?
僕にはよく分からないけど、きっと妹には良くないものなんだと思う。
だから僕は、妹に触らないことにしたんだ。
「⋯⋯あれ?写真がない」
パパから貰った本当のママの写真がなくなった。
なくさないようにって、宝箱の中に入れておいたのに。
本の間とか、おもちゃを置いてある場所とか、鞄の中とか探したけど見つからない。
カーペットの下とかクッションの隙間とか、探しても見つからなくて。
「どうしよう⋯⋯、あ、もしかして⋯⋯」
昨日公園で薫くんと遊んだ時に、落としたのかも。
持って行った記憶はないけれど。
でも、昨日はお手伝いさんがいたから公園に行けたけど、今日はお手伝いさんはお休みの日だから、公園に連れて行ってもらえない。
「ママ⋯⋯」
ママは妹と一緒にお昼寝中だった。
どうしようかなって、少しだけ考えて、僕はひとりで公園に行くことにしたんだ。
大丈夫、公園までの道は覚えているよ。
車が危ないから、道の端っこを歩くんだ。
道路を渡る時は手を挙げて、車が来ないかきちんと確認するんだ。
ほら、ちゃんとひとりで公園に来れたよ。
「ないなぁ」
どこに行っちゃったのかな、本当のママの写真。
おかしいな、大事に大事にしまっておいたはずなのに。
パパに言ったら怒られるかな、せっかくあげたのにって。
ごめんなさい、パパ。
僕、いい子でいようと思って、たくさん頑張ったんだけど、いい子じゃないみたい。
泥棒猫の子だからかな?
ごめんなさい、本当のママ。
僕のせいで本当のママが悪く言われるの。
僕、もっともっと頑張って、いい子でいるね。
だからいつか、僕のことをぎゅってしてくれる?
ねぇ本当のママ、ママはどこにいるの?
ママって大きな声で呼んだら、会いにきてくれる?
それなら、僕、声が枯れるまでママのこと呼ぶよ。
ねぇ、本当のママ、今のママは僕のこと嫌いかな?
だってね、一度もぎゅってしてくれないんだ。
ねぇ、本当のママ、パパは僕のこといらなくなったのかな?
僕ね、もう少ししたらおうちじゃない所に行くんだって。
同じ歳の友達がたくさんいる所だって。
でも、パパや今のママは居ないんだって。
パパは僕のためだよって言うけれど、どうしてパパと一緒じゃダメなんだろう?
ねぇ、本当のママ。
僕、ちょっと⋯⋯ううん、とっても寂しいんだ。
だから早く、ぎゅってしてちょうだい。
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(´-ι_-`) 子供って意外と大人のこと見ているなぁ、と思って。そして我慢しているな、とも思って。因みに写真を盗んだ犯人は、今のママのママです。
【お題:始まりはいつも 20241020】
「ゴメンね、和美」
そう言って、涙を流すのは真壁 琴子、私の幼馴染で私の彼氏を寝取った女。
誰からも好かれる容姿の彼女は、子供の頃から自分の武器を熟知していた。
自分の両親も私の親も上手に騙して、人から好かれる優しい可愛い女の子を演じている。
私は彼女とは違い不器用だった。
特に可愛らしくもない普通の見た目は、隣に彼女が並ぶことで普通以下になる。
人よりも平坦な感情は、タダでさえ無愛想な顔を無表情にさせた。
そして、それは今も変わらない。
「はぁ、こんな時でもその顔かよ」
悪態をついた男は、ガシガシと頭を搔いている。
上半身、いや全身何も身に纏っていない男女が2人、同じベッドにいれば何をして居たのかなんて聞くだけ野暮だ。
玄関に見知った靴があったから、大方予測はついていた。
ただ 、ほんの少し、1%にも満たない可能性に掛けたのだが、無駄だったようだ。
彼が私に不満を露わにするようになったのは、ふた月前位からだっただろうか。
街中で琴子と出会った、その後からだ。
それまでは特に何も問題はなかったように思う。
上司の紹介で顔合わせをして、お互い特に付き合っている相手も好きな相手もいなかったため、交際を始めた。
週末に予定があれば顔を合わせ、映画やショッピング、家などで同じ時間を過ごす。
特に燃えるような恋や愛ではなく、ただ緩やかに優しく流れる時間を心地よいと感じていたのだが。
結局、この人も同じだったか。
そう思わずには居られない。
私は無言でネックレスを外しテーブルの上に置く。次にピアスも外して同じようにテーブルに置いた。
「他のプレゼントで貰ったものも後で送ります。私の物は捨てて下さい。それでは、今日までありがとうございました」
特に感情が揺れることなく、淡々と告げる。
きっとこれも、両親が言う『可愛げがない』の1つなのだろう。
去り際に、洗面所の歯ブラシをゴミ箱に投げ入れた。
そのまま2人を振り返ることなく、彼の部屋を後にし駅へと向かう。
「細田部長になんて言おう⋯⋯」
入社してからずっと世話になってきた人だ。
仕事には厳しいが人当たりがよく、残業が続いていると甘いものをこっそり差し入れしてくれたりもする。
彼も、私に合う取引先の社員がいると細田部長に紹介されたのだった。
時折、その後はどうかとか、何かあれば遠慮なく言ってくれとか、何かと気にかけてくれている。
週明けに別れた事を報告するべきだろうが、別れた理由を幼馴染に寝取られました、とは言えない。
彼氏に浮気されて別れた事より、上司に何と伝えるかで悩んでいるとか普通では無いだろう。
だから、浮気されるんだな、と思い至り乾いた笑いが口を出た。
小さい頃はこんなではなかったように思う。
人並みに泣いて笑って、そんな生活を送っていたように記憶している。
それが変わったのは、隣に琴子一家が越してきてからだ。
同い年の琴子とは幼稚園が一緒になった。
琴子はすぐに幼稚園のアイドルになった。
園児はもちろん、先生方や保護者まで、可愛らしい笑顔と仕草で皆を虜にした。
よく家に遊びに来ていた琴子は、私の両親をも虜にし、やがて両親は琴子と私を比較するようになった。
初めの頃は私はよくわかっていなかった。
ただ、ことある毎に琴子ちゃんは、琴子ちゃんなら、と言われ続ければ子供でもわかる。
両親が自分を琴子と比べれば比べる分だけ、笑顔が消えて行った。
琴子は私と2人きりになると人が変わった。
笑うことはほとんど無くて、いつも文句を言われていたように思う。
やがて、友達だった子達はみんな琴子の傍に行き、私は1人になった。
それからは私に友達ができる度に、友達は琴子に奪われた。
始まりはいつも決まっている。
『へぇ、いいなぁ』
両手を胸の高さで組んで、首を左に少し傾け、渾身の上目遣い。
少し潤んだ眼に、ほんのちょっぴり開いた口元、異性はこれでイチコロだし、大人も可愛さに目元が緩む。
同性でも半分くらいは心を許してしまう。
あざといと思った人たちも、その後、私が琴子を虐めているという、琴子本人からの申告により私の元を離れて行く。
初めの頃は否定もしたし、本当のことをわかってもらおうと努力もしたけれども、琴子の方が1枚も2枚もうわ手だった。
否定すれば否定するほど、私は悪者になり、皆から無視されるようになった。
誰にも、両親にさえ信じてもらえない、そんな環境で笑うことなど私にはできなかった。
ただ、できるだけ琴子から離れて暮らすこと、それだけが自分を守れる術だった。
周りから何を言われても構わずに、勉強に力を入れた。
高校、大学と琴子が入れない学力の高い学校に通った。
それでも、琴子から完全に逃れることは出来なくて、付き合った人はことごとく琴子に取られた。
「なるほど。⋯⋯それは申し訳なかった」
「いいえ、細田部長のせいではないので」
結局色々と悩んだ結果、上司である細田部長には正直にありのまま話すことにした。
週明けの月曜の夜、部長行きつけのお店でこうして向かい合って食事をしている。
個室を用意してくれたのは、部長の気遣いだろう。
「いや、真面目で誠実な男だと思っていたんだがな。あちらの専務もそう言っていたし⋯⋯。本当に申し訳なかった」
「いいえ、きっと私に魅力がなかっただけです」
苦笑いして、注がれた日本酒を一口飲む。
鼻に抜けるフルーティーな香りが料理とよく合う。
日本酒の美味しさを教えてくれたのは細田部長だ。
「ふむ、実はな、ある人が君と一緒に仕事をしたいと言ってきていたんだ」
「ある人?」
「あぁ、ただ君に彼を紹介した手前、なかなか言い出せなくてな」
「⋯⋯あの、それはどういう意味でしょう?」
「ん?あ、違うぞ、結婚相手にとかそういうのではなく、あちらは純粋に君の仕事の腕を見込んで言ってきただけでな。君のキャリアを考えれば悪くない、寧ろいい話だと私は思う。それに今の話を聞いて、是非とも行くべきだと私は思うよ」
「部長、話が見えません」
「⋯⋯ジョシュアが、是非君をと言ってきている」
ジョシュア⋯⋯、3ヶ月前に来た部長のお客様で、社の案内係兼通訳としてお相手させて貰った。
滞在期間は1週間で、とても気さくな方だったけれど、アメリカの会社の方だわ。
「⋯⋯それは、あちらに行くということですか?」
「あぁ、そうなる。日本の、君の周りの環境はあまり良いものではないように思える。それならばいっその事、日本を捨ててみてはどうだろうか。向こうは実力社会だ、日本より厳しいかもしれない。それでも、私は君にはその方が幸せになれるように思えるんだ」
「そのお話、お受けします」
「そうか、わかった。ジョシュアには私から連絡を入れよう。⋯⋯寂しくなるな」
「気が早すぎますよ、部長」
全てを捨てて、身ひとつで私は人生をやり直している。
もっと早くに行動するべきだったと少し後悔したけれど、あの時後押ししてくれた部長には本当に感謝している。
今ならわかる。
琴子はああいう風にしか生きられない人間なんだと。
そしてあの頃の私も、ああいう風にしか生きられなかった。
今度は、誰かに決められることなく、誰かに邪魔されることなく、自分で決めた道を、人生を生きると、そう決めた。
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(´-ι_-`) 長く書きたくなってしまうのよね。短くすると消化不良⋯⋯( ・᷄ὢ・᷅ )
【お題:すれ違い 20241019】
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(´-ι_-`) キノコの美味しい季節になりました。