真岡 入雲

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【お題:声が枯れるまで 20241021】

「それでね、薫くんがね、今度一緒に⋯⋯」
「ごめんね、悠斗くん。叶美が泣いてるの。私行かなくちゃ」
「⋯⋯うん、わかったよママ。僕、ひとりで遊んでいるね」
「悠斗くんがいいお兄ちゃんで助かるわ」

本当のママは、僕が2歳の時にお空に行ってしまったんだってパパが言っていた。
でも僕は、本当のママの事はあまり覚えていない。
本当のママの顔は知っている、前にパパが写真をくれたから。
だけど、本当のママの声も手の温かさも僕は覚えていないんだ。

今のママは僕が4歳の時におうちに来た。
パパが新しいママだよって教えてくれた。
本当のママがいなくなってからパパはずっと大変そうだったんだ。
おばあちゃんやお手伝いさんが来てたけど、それでも大変だったと思う。
だから僕はいつもいい子にしてた、そうすればパパが喜んでくれるから。
寂しいとか、パパと遊びたいとか言わないと決めていた。
だって、パパが困った顔をしちゃうから。

パパと今のママとの赤ちゃんができて、パパも今のママも凄く嬉しそうだった。
もちろん僕も嬉しかったよ。
だって妹ができるんだ、お兄ちゃんになるんだからね。
今のママのお腹が大きくなると、お家には今のママのママが来てくれるようになった。
今のママのママは、僕のことはあんまり好きじゃないみたいだった。
ちょっと叩かれたり、ご飯を無しにされたりしたし、幼稚園の送り迎えでは本当のママの悪口を言われたりした。
僕がすごく悲しくなって泣いたりすると、今のママのママはいつも言うんだ。

『泥棒猫の子が』

って。
うーん、泥棒猫って何だろう?僕はパパと本当のママの子供なんだけど?
妹が生まれると、パパも、今のママも、今のママのママもとても嬉しそうだった。
僕もすごく嬉しかったけど、パパがいない時には、僕は妹には触っちゃダメだって言われた。
泥棒菌が移るからって、今のママのママに言われたんだ。
泥棒菌ってなんだろうね?
僕にはよく分からないけど、きっと妹には良くないものなんだと思う。
だから僕は、妹に触らないことにしたんだ。



「⋯⋯あれ?写真がない」

パパから貰った本当のママの写真がなくなった。
なくさないようにって、宝箱の中に入れておいたのに。
本の間とか、おもちゃを置いてある場所とか、鞄の中とか探したけど見つからない。
カーペットの下とかクッションの隙間とか、探しても見つからなくて。

「どうしよう⋯⋯、あ、もしかして⋯⋯」

昨日公園で薫くんと遊んだ時に、落としたのかも。
持って行った記憶はないけれど。
でも、昨日はお手伝いさんがいたから公園に行けたけど、今日はお手伝いさんはお休みの日だから、公園に連れて行ってもらえない。

「ママ⋯⋯」

ママは妹と一緒にお昼寝中だった。
どうしようかなって、少しだけ考えて、僕はひとりで公園に行くことにしたんだ。
大丈夫、公園までの道は覚えているよ。
車が危ないから、道の端っこを歩くんだ。
道路を渡る時は手を挙げて、車が来ないかきちんと確認するんだ。
ほら、ちゃんとひとりで公園に来れたよ。

「ないなぁ」

どこに行っちゃったのかな、本当のママの写真。
おかしいな、大事に大事にしまっておいたはずなのに。
パパに言ったら怒られるかな、せっかくあげたのにって。
ごめんなさい、パパ。
僕、いい子でいようと思って、たくさん頑張ったんだけど、いい子じゃないみたい。
泥棒猫の子だからかな?
ごめんなさい、本当のママ。
僕のせいで本当のママが悪く言われるの。
僕、もっともっと頑張って、いい子でいるね。
だからいつか、僕のことをぎゅってしてくれる?

ねぇ本当のママ、ママはどこにいるの?
ママって大きな声で呼んだら、会いにきてくれる?
それなら、僕、声が枯れるまでママのこと呼ぶよ。
ねぇ、本当のママ、今のママは僕のこと嫌いかな?
だってね、一度もぎゅってしてくれないんだ。
ねぇ、本当のママ、パパは僕のこといらなくなったのかな?
僕ね、もう少ししたらおうちじゃない所に行くんだって。
同じ歳の友達がたくさんいる所だって。
でも、パパや今のママは居ないんだって。
パパは僕のためだよって言うけれど、どうしてパパと一緒じゃダメなんだろう?

ねぇ、本当のママ。
僕、ちょっと⋯⋯ううん、とっても寂しいんだ。
だから早く、ぎゅってしてちょうだい。


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(´-ι_-`) 子供って意外と大人のこと見ているなぁ、と思って。そして我慢しているな、とも思って。因みに写真を盗んだ犯人は、今のママのママです。

10/22/2024, 2:40:01 AM