海の底で横たわる。
浮かびもせず、沈みもせず、ゆらゆらとたゆたう。
陽の光は、遠くの方でほのかに差し込んでいる。
いつか報われるから、いつか大丈夫になるから、歳を取れば鈍感になるから...
そんな言葉で自分を騙し続け、揺らぎ続けた。
突然何かが弾けて、つらいという感情に全てを支配された。
もう無理だ。
涙を流しながら、海底で身体を丸める。
それまで無害だった周りの水でさえ、チクチクと自分を刺してくるような感覚になる。
嗚咽を漏らしながら頭を抱えてうずくまる。
早く過ぎ去ってくれ。
誰も助けに来ない深い紺色の中、絶望に浸る。
どのくらい時間が経ったのか分からない。近くの砂が舞い、何かが淡く光った。
気になった私は、泣き腫らし膨らんだ顔を上げ、おぼつかない足取りで歩み始める。
それは小学生の時に先生がくれた手作りの金メダル。
金色の折り紙で作ったちゃちな代物。
でも、嬉しかった。
誰よりも頑張り屋さんで、元気で明るい、太陽みたいな子。あなたの放つ光が、いつかあなた自身も照らしますように。
先生がくれた言葉が脳裏に蘇る。
先生、でも私もう頑張れないし、元気じゃないし、明るくなれない。太陽じゃない。
ふたたび力をなくし、膝を落としうなだれる。
遠くの方で、水の流れが起きているのを感じる。
何かが近づいてきている。
それはイルカだった。
プオオオオン。
超音波のような音が聞こえる。これがイルカの鳴き声...?
すると言葉が脳内に流れ込んできた。
ゆっくり、生きれるといいね。
君が、君のペースで生きれる、そんな環境を探していけばいいよ。
頑張らなくていいよ。だってもう十分頑張ってるじゃないか。
不思議と、癒される音色だ。
自分のペースで、生きる...。なにかに追い立てられるように、なにかを追い求めるように生きてきた自分にとって、そんなことを考えたこともなかった。
しばらく考え込んでいると、地面からボコボコと泡が吹き出し、辺り一面を覆ってしまった。
すると次の瞬間、私は砂浜にたっていた。
重力の重さを実感し、身体が酷く重だるい。しかし不思議と頭はスッキリとしていて、心は軽やかだった。
少しづつ歩き始めた。自分の意思で、自分のペースで。
砂浜には、一筋の足跡が、どこまでも、続いていた。
美しいものは、いつでもそこにあって、ただ日々に流されていると時折見えなくなったり、かすれて、滲んで見えることもある。
でもずっとそこにいて尊いし、心が綺麗な時じゃないとキャッチできない小さい声の感性なのがまた愛らしい。
この世界は、複雑で、めんどくさくて、ときどき辞めたくなることもあるけど、それでも、愛おしくてたまらない。
ずっとこのまま風のように生きたい。
責任とか呪縛とか縛り付けられるものから逃れて、気ままに生きたい。
だがふと、精神的な支柱が欲しくなる。
あまりにも変化に富んだ毎日に安心感が欲しくなる。
土台が欲しい。
甘えられる何か。
それを探して今日も生きる。生ききる。
真面目に、愚直に。
でもきっと、外にはないんだろうな。と勘づいている。
内側に、それはあるんだろうな。
等身大の自分を認めたい。
プライドが邪魔をする。
いや、それはプライドと呼ぶにはあまりにも拙く、筋が通っていない、傲慢さ。
傲ってしまうには十分な凹凸の突出した部分。
一方で、社会人に求められる基礎的な、当然な部分。そこが凹んでいる。足りない。
当然、あぶれる。
足りない部分に合わせようとしても、突出した部分に合わせようとしても、なんか合わない。居場所がない。
たぶん、居場所を創りに行くしかないんだ。
自分で自分の人生を切り拓くしかないんだ。
だから、どんな自分であっても、過程であっても、ありのままを認めて生きていきたい。
そういう風に思っていく。
色とりどりの日々が余りにも眩しすぎて目がくらんだ。しばらくグレーに見えそうだ。