アパー・キャットワンチャイ

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12/22/2023, 4:31:47 AM

大空を抱いて、飛び立つ。
そう何度も妄想した。
実際は、どうだ。
飛ぶどころか、走れてすらいない。助走すら、できてない。産まれる前は出来てたような気がする...。
手を空へ伸ばす。
虚しく空を切るだけ。
この世界は、なんと不自由か。
「何を泳いでいるの?」
くりくりとした目で飼い犬のダックスが問うてくる。感じがした。
ぶんぶんと腰ごと尻尾をふっている。
「何にもしてないよ、遊ぼう。」
「ウォワフッ」
ダックス特有の野太い声を出し、キャッキャっと走り回る。
でも、それでも、君とならどこへでも行きたい。

いつか先に大空を飛び立つ君を追いかける自分に捧ぐ。

12/12/2023, 8:59:41 AM

何でもないフリをして、泣きそうな顔を隠しながら目線を微妙に外し、笑う君を見て、私は胸が痛くなった。
君にこの世界の、幸せを少しでも知って欲しい。
不幸が溢れてる世の中かもしれない。でもその分、楽しいこととか、幸せなこと、あるから。
もしかしたら繊細な君には棘棘しすぎた世界かもしれない。
でも、叶うことなら、諦めないで、私と一緒に、生きて欲しい。
そう願うことは私のわがままだろうか。
「私ってバカだよね〜」
そういって笑う君に
「世界がバカなだけだよ。」
と真剣に伝えた。
「えっ。」
肩を抱いた。
トントンと背中を叩く。
大丈夫。大丈夫。この、混沌とした世界では、何が正しいのか、何が間違ってるのか、分からないよね。
一緒に、良い世界も悪い世界でも、それでも、生き抜いていけるよう私が支える。
バカじゃなくて、余りにも尊くて美しかっただけだから。

12/2/2023, 6:01:55 AM

ラストスパート―――。
これまでの全力を超えて、超えて、走る。
まだか、ゴールはまだか。
限界と身体は告げる。
もう、限界。むり、むり。
紅潮した気持ちで、引っ張る。それでも無理やり走らせる。
ゴール。ゴールラインを踏んだ瞬間、身体が脱力する。速い呼吸が止まらない。ふらふらと、皆が並ぶ列へと座りに行く。小さい折り紙くらいの紙に書かれた12位の文字。前に座る1桁の人達は、一息つけて余裕が戻ってきたのかお喋りなんかをしている始末だ。
ハァハァと酸素を求めながら、うつむく。
君とはもう、話せないぐらい引き離されてしまった。運動バツグンの、ドッチボールでいつも壁になって守ってくれた君。仲良さそうに、前の方でお喋りしている君に、黒いドロドロしたものを煮やす。
次の昼休みで、おめでとう。また上位じゃんと話しかけてくれたことに私は嬉しい気持ちとともに自身の感情を恥じる。君なんて、4位じゃないか。前回は、9位だったのに2桁になったことを、微塵も感じさせない純粋な祝福に、眩しくて思わず目をそらす。君はそんなことなんか意識してないのかもしれないけど、やっぱり君みたいな明るい元気な人と接すると、私の暗い部分が浮き出てくるようで、一緒にいる資格がないように感じてしまう。
「今日もドッジボール来るよな」
思わず「うん!」と返事をして、走り出す。やっぱり距離が開いてしまうけど、少しペースを落としてくれるような配慮を感じる。
もしかしたら、このまま男女の身体の能力の違いで、距離は開き続けてしまうかもしれないけど、いつも近いところにいたいと願うのは、私のわがままだろうか。

11/30/2023, 10:19:27 AM

泣かないで!
泣きたいのはこっちなのに。もう試せるものは試した。この小さいくせに大人よりパワフルなんじゃないかと言う声量で泣きわめく生物を見下ろした。かくなる上は...と手に持つ紐を強く握りしめた。
「たかーいたかい」と連日の睡眠不足によりあまりにも低くなった"低空たかいたかい"をお見舞いし、抱っこ紐にくくる。
昨日見た明るい雰囲気のホラー映画はダメだったか、この赤ん坊はなんの映画が好きなんだ?
赤ん坊は泣き止まず、傍にあった映画の山を崩した。
その1番上にでてきた映画は、「笑ってはいけないタイキック24時」
えめっちゃおもろそう。
この子と笑いのツボ合いそう。
と思わず手に取り、鑑賞する。
もはやパターン化された笑い。でもやっぱり面白い。久しぶりに腹をかかえて笑った。
赤ん坊は繰り返される同じような流れにどうして幾度となく爆笑するのだろうかとでも、言っているようなふてぶてしい顔つきだ。
笑いのリズムに合わせ、トントンと背中を叩く。
徐々におっさんのような憎たらしい顔つきが、普段の安らかな寝顔へと変わっていった。
どんな仕事上の問題よりも手強いコイツは、俺の推し。

11/30/2023, 1:16:40 AM

冬のはじまりは、唐突な形で訪れた。
「別れましょう」
頭の中でその繊細で仄かな攻撃性を持った一言は反響し、いつまでもこびり付いていた。
本当は、違和感に気付いていた。
でも、俺がもっともっと好かれるように努力すれば、もっともっと魅力的になれば、解決する問題だと、そう言い聞かせてきた。どうやら、そんな単純な問題でもなさそうだ。
彼女の、突き刺さるような視線を感じ、辛うじて
「待って」
と答える。
「もう十分待ったよ。変わんないもんね。まーくんは。」
「変わろうと、努力してるよ!?資格、取ったじゃん、昇進もあともうちょっとなんじゃないかって、部長が!」
「そうじゃないよ、努力してる俺、毎日、疲れた、疲れた。会社の人がこんな奴ばっかで俺こんなに頑張ってるのに。俺俺俺俺。気付いた?私さ、この前ペットを亡くしたの。小さい頃から、15年間も一緒にいたチワワ。それで、ホントは、寄り添って欲しくて、話聞いて欲しくて。でもまーくんは俺にしか興味が無いからね。私が話そうとしても、それでさ、はぁもう、とか言って延々とグチ続けてるもんね。」
「―――っ。」
言葉を、飲んだ。
「でも、俺、アリサのために、」
「私を幸せにしないくせに、勝手に自己満足に使わないで頂戴。」
勢いよく千円札を机に叩きつけ、怒りを顕にする。
もう対話は無駄だと判断したのか、財布をカバンに押しやり、カフェを後にする。
1人残されたまひろは、言い知れぬモヤモヤを、ぬるくなったブラックコーヒーで、身体の奥底に丁寧にしまい込む。

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