冬のはじまりは、唐突な形で訪れた。
「別れましょう」
頭の中でその繊細で仄かな攻撃性を持った一言は反響し、いつまでもこびり付いていた。
本当は、違和感に気付いていた。
でも、俺がもっともっと好かれるように努力すれば、もっともっと魅力的になれば、解決する問題だと、そう言い聞かせてきた。どうやら、そんな単純な問題でもなさそうだ。
彼女の、突き刺さるような視線を感じ、辛うじて
「待って」
と答える。
「もう十分待ったよ。変わんないもんね。まーくんは。」
「変わろうと、努力してるよ!?資格、取ったじゃん、昇進もあともうちょっとなんじゃないかって、部長が!」
「そうじゃないよ、努力してる俺、毎日、疲れた、疲れた。会社の人がこんな奴ばっかで俺こんなに頑張ってるのに。俺俺俺俺。気付いた?私さ、この前ペットを亡くしたの。小さい頃から、15年間も一緒にいたチワワ。それで、ホントは、寄り添って欲しくて、話聞いて欲しくて。でもまーくんは俺にしか興味が無いからね。私が話そうとしても、それでさ、はぁもう、とか言って延々とグチ続けてるもんね。」
「―――っ。」
言葉を、飲んだ。
「でも、俺、アリサのために、」
「私を幸せにしないくせに、勝手に自己満足に使わないで頂戴。」
勢いよく千円札を机に叩きつけ、怒りを顕にする。
もう対話は無駄だと判断したのか、財布をカバンに押しやり、カフェを後にする。
1人残されたまひろは、言い知れぬモヤモヤを、ぬるくなったブラックコーヒーで、身体の奥底に丁寧にしまい込む。
11/30/2023, 1:16:40 AM