れもんす

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8/15/2024, 10:45:23 AM

 昼間の賑やかさとはかけ離れた夜の海は、さざ波の音だけが響いていた。
「静かだなぁ」
月や星が出ていればロマンチックだったのだろうか。この磯臭さに慣れていればもっと美しく見えただろうか。隣に好きな人がいればさみしくなかったのだろうか。
「私にはこれくらいが丁度いいや」
光の無い夜に、慣れない匂いを胸いっぱいに吸い込む。独りきり、ただ静かに。

8/14/2024, 12:59:02 PM

自転車転ガスハイカラアンチャン。何方へオ出カケデスカ?
銀座ノ喫茶ニ、可愛イアノ娘ヲ口説キニイキマス。
ソンナラオ帽子直シテ行キナ。
五月蝿イ、五月蝿イ。今ニ見テイロ。


珈琲一杯飲ムキリノ、金無シアンチャン何方へオ出カケ?
何時モノ喫茶ニ行ッテ、今日コソアノ娘ヲデェトニ誘ウツモリデス。
ソンナラ自転車ジャナクテ人力車デオ出カケシタラ?
金無シ男ヲイジメルナ!


立派ナアンチャン今日ハ何方ニ? 自転車ハ卒業シタノ?
今日ハ恋人ノ御両親ニ挨拶ヲシニ行キマス。
アレマ、格好ツケチャッテ。行ッテラッシャイ。
ソレデハ、母様。行ッテマイリマス。

8/13/2024, 11:19:17 AM

 瓶に入った金平糖を2つ、3つ取り出す。口の中で溶かしていれば、時計の針が一周しないうちにほろほろと崩れた。今日、これを今日は何回繰り返しただろうか。体に悪いから1つ以上食べるなと言われているのに、何時もそれを破ってしまう。心には良いのだから、許されるだろう。そう思いながら半分も入っていない瓶をなぞった。

8/12/2024, 11:02:32 AM

 初心者が集まる音楽講習会で一人一人の作品を品評する時間になった。毎回、この時間は酷評されてばかりで嫌になる。いつもと違う講師も来ていたが、期待はしていなかった。

「この曲を作ったのは、誰ですか」

遂に私の番が来た。もう腹をくくるしかない。

「私です……」

「君の奏でる音楽は酷く歪だ」

この人もか。そう思い、手元の歌詞カードに目を移す。

「しかし、この講習会の中の誰よりも音を楽しんでいる」

ざわめきが広がる。さっきまで仏頂面だったその講師が笑いながら言ったのだから、そうなるのも当然だろう。けれど、私はそれどころではなかった。

「君の今後を期待してるよ」

8/11/2024, 9:41:07 PM

白いワンピースの彼女は、笑みを浮かべながら私に囁く。
「私がいなくても元気でね」
麦わら帽子の似合うあの人はさえない男が鉄の塊で遠くへ拐ってしまった。

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