#85「記憶の海」
はて、いずこへ?
よせて、かえす波に手を浸しているような
そんな意識から我に返る
海馬が、壊れた玩具のブリキのように
ギギギと繰り返し音を鳴らしている
もはや錆びてしまったブリキは
終わりのない水平線をなぞるだけであった
そこへ、わたしと名乗るものは問うた
「貴方は、まさか死んでいるのではあるまいな」
いやぁ、ね。
実はわたしも思っていたよ
思い出を持たない記憶の海は
はっきりいって…
はて、いずこへ?
#84「静かなる森へ」
ハイホー ハイホー
おうちへ帰ろう
しんしんと湿気を帯びた森が
きみの体温を奪っていく
ハイホー ハイホー
もうお疲れさま
生き物はとうにいない
それなのに静けさがうるさい
ハイホー ハイホー
きみとふたり 白い息がひとつ
月が綺麗だねぇ
掘り返した土の匂いが広がる
静かなる森
ハイホー ハイホー
帰ろうか
ぼくらのおうちへ
#83「青い青い」
ケツの青いガキだから
この気持ち、分かんないけど
2人で1つの自転車に乗って
雨上がりのアスファルト
水溜まりに写った空に、俺らが走っている
「これでよかったんかも、しれへんなぁ」
「なんてーー!?」
「なんでもあらへんー!!!」
雲一つない青い青い空
この空の下でコイツが笑っているのなら
世界で一番、俺は幸せだ
#82「夜が明けた。」
たぶん、もう少しなのだろう
夜が明けるとき
耳をそばだてて聞くのだ
この世の静けさを
すずめの鳴き声
小学生の元気のいい声
ゴミ収集車の軽快なメロディー
それが小さな幸福と思えるなら
きっと今日も素敵な日になるはずだ
だから幸せに長生きしてね
病院のベットで横たわって
そう願っていた
#82「ふとした瞬間」
生きるということは無意識に行われる
それなのにどうして こんなにも難しい
脳全体が使われるのは2%
大体は仕事でオーバーしている
机に突っ伏して ふとため息をついたとき
ならば残り98% ぼくはきっと
きみのことを 想っているんだろう
だからいつもパンクするのか
なんて バカなことを考えていた
息を吸う 目を閉じる あくびをする
たったこの瞬間で思い出される
「記憶」のパッチワークを繋いで
「愛情」という色鮮やかな刺繍を縫った
「思い出」のことを
ふとした瞬間に感じる愛おしさ
「仕事、がんばろ」