#81「どんなに離れていても」
「知っとる?月ってな 一年に3cmくらい地球と
離れてるらしいで」
博識な人と別れた
とても大切な人だった
その言葉を 最後に別れ話をして
その言葉は 私を宇宙に駆り立てて
その言葉で 宇宙旅行に旅立った
「月から見た地球は 意外と小さかったよ」
ストレス発散に旅行に来たのに
まだ彼を思い出すように話しかけている
羨ましいなぁ
地球と離れても そのときそのとき 良い距離感で
良い具合にバランスを取っている月
諸行無常 いつか月か地球が壊れるだろう
バランスが保てなくて 離れてしまうだろう
だけど 終わりまで一緒にいようとする天体は
人間からしたら一途のように見える
だから月に恋をする
月みたいに 私はずっと 少しずつ
何度も まわって 見えなくなって 繰り返して
あの日の思い出に目を眩ましていた
お願い 目の前を流れるデブリだっていいから
「遠くから見ていた私からは憧れの人を追って
努力する君は 月みたいに輝いていた」
って伝えてあげて欲しいな
もう遅いか
地球からずいぶんと離れて
ロケットは 月への到着をアナウンスした
横たわって 私は物思いにふける
離れたって君を見つけられる
いつか また地球で会えると思う
でもさ
やっぱり近くで 君の笑う顔が見たいなって
それだけだよ
それだけ
#80「どこに行こう」
春が来た 春が来た
どこに来た
もう二度と来ないよ
春は、父によって殺されたから
取り返しのつかないことになった
殺人現場を見た家族は 宇宙人になってしまった
忘れてしまったんだ 私が殺されたことを
死んだ次の朝
私は生きていて
家族と一緒に食べたのだ
私を殺した父が作った
特製ペペロンチーノを
それは死にたくなるほど、おいしかった
日常は無理やり 4月31日を私だけが繰り返す
精巧なレプリカのしあわせ
みんなだけが、物語のその先の
めでたしめでたしに、いるみたいだ
桜の木の下の死体みたいに
強烈な違和感は塗りつぶされて
そらがきれいだ
殺されたことを嗤っている
どこに行っても
もう春は来ないのに、と
悲しいかな、レプリカを愛するしか私には
けれど今
私はあえて殺さなかった
鼻唄を歌う父を
もし、もしもほんとうに春が来るとして
そこに父がいなかったら
わたしの慰謝料を払ってもらえないから
そうしたら、桜を見ようね
どこにでも行ける自由って、きっと
最高の復讐だから
だから、生きていてよかったんだ
#79「big love!」
知りたいっていう気持ちがあるかぎり
僕と君は繋がっていられるかな
これが愛なら それがいい
宇宙の未知より大きくて
まるで偉大な 一目惚れ
その名は
ビッグバン!!!
笑って いつまでも こうやって
#78「春恋」
きっとあんたに恋なんかしたって
遠距離恋愛にしては遠すぎるよ
あんたは来年、再来年と
早くなるんだ、俺のもとから離れるの
そしてどんどん冷たくなる
ねぇ、ふらないでよ
いかないでよ
戻ってくるくせに
またやさしく笑うくせに
「あなただって、忘れられないのに?」
あんた
これだから春が嫌いだ
#77「風景」
夢から覚めた夢のように
これほどはっきり ぼやけたものはないだろう
僕の目の前の現実は
本当に現実なのだろうか まるでわからない
コンタクト越しに 輪郭をなぞっても
あなたの顔と 真意が見えない
上を見上げても
ドライアイは悲しみを語れない
子供の頃に見たコハクの月が
玩具みたいにチープに見える
ロマンと言う言葉の響きは
今や 責任と後悔に触れ
あの日から ぼんやりと
そして はっきりと
記憶はあっても
思い出がない
これは夢だ
悪い夢だ
あぁ、流れ星が見えないや