#94「泡になりたい」
ガラスに入った気泡を潰しては探して
堂々巡りの日々を送る
人波をうまく泳げなくて
うまく息継ぎができなくて
あげく海が怖いなんて
そんな人魚に居場所はない
錨のように落ちていくより
綺麗な泡となって天に昇れば
そこに居場所が見つかるのかな
なんて杞憂へと逃げたくなる前に
今日もきみに会いに行く
シュワシュワと心地よい音のメロンソーダ
例えるなら、きみ
うまく喋れない
うまく歩けない
うまく空気も読めない私に
きみはパチパチと、愉快に甘く笑いかけた
だれかは当たり前の存在だと言うけれど
私には贅沢すぎる大切な宝物なんだ
叫びたいようなそんな言葉も
うまく伝えられずに泡となって消える
小さかった泡が大きくなって
パチンと弾けるように
ある日、大切なきみに
耐えられなかったと言われたなら
私は泡になって消えたい
そうなってしまわぬように
言葉の泡をかき集めて
私はちゃんと
愛していると言えるかな
#93「空はこんなにも」
青い屋根の下、同じ壁の部屋
そこに穴が空いてしまっただけの話
それだけで遠くに見えたコメディが、
とたんに悲劇に見えるなんて
感情移入もほどほどに
スキップ拒否はいつからだった?
真面目くんな僕らは目の前の課題に熱心です
暑いならもっと気楽にサーフィンしようよ
そういったらハエみたいに叩かれるかな
魔女裁判の歴史を鼻で笑った
それもきっと呪いで
私には関係ない、僕には関係ないなんて
都合の悪いときにしか、僕らは
心に嘘をつけなくなってしまった
皮肉に笑った誰かの顔が
涙を知らぬピエロに見えた
ねぇ、魔女が見た空は美しかった?
幸せにいきたい
幸せな世界で生きていたい
もう手遅れだから死にたい
でもきっとそれは、目の前の話だけだと
信じていたい
信じていたいよ
僕は、キミを信じているよ
祈りの数だけ星となれ
#92「マグカップ」
わん、わんっ、わん!
跳ね起きる
どこかで犬の声が聞こえる
ちっとばかし暗いと思ったが
そうか夜だ
階段の手すりをつたう音だけが
私の頭をユラユラと動かしている
ポチョン、ポチョン
手探りでキッチンまで
すりガラスから月がぼやけて
足元を頼りなく照らす
ひんやりとしたマグカップ
犬の声でさえ聞こえなくなってしまえば
世界はとても静かだ…
「わんっ!!!」
ガチャン
っあー、これがサスペンスの始まり
#91「もしも君が」
おねがい
もしも君が神様ならば
スケープゴートになってもいい
振り子のように吊られた僕
君に会うまでの、神聖な時を刻む
ちゃんとなぞって、今から君に捧げる
僕の頸動脈
ちゃんと聞いて、今から君に捧げる
血のドクドク流れる音
ちゃんと突き刺して、今から君に捧げる
奥深く堅い僕のハート
僕を暴いて
僕を知って
僕を屠って
美味しいところ、わかるよね?
君のお墓を彩るなら
鮮やかなワインレッド
そうだ、僕の血で染めてあげる
害虫が寄りつかないように
だから神聖な血に、僕に
愛を与えて
「ねえ、」
時が止まった
#90「夢見る少女のように」
ステッキをひとふり
私は知らぬふり
いたずらな花火のように
ひとときの夢で眠ればいい
蝶のように舞い、蜂のように刺す
子供のように手を伸ばそうと
宝箱には入らない
憧れに加工された私
誰よりも美しい
本当の私よりずっと、ね
その命の儚い輝きを
「かわいい」と人は呼ぶのでしょう
手のひらで踊らされていると気づいたなら
最期までキレイに踊りきってあげる
バカだねって、目を細めて