#102「待ってて」
もう戻らないものになんと伝えればいい?
ないようである あるようでない
見知った町の脇の一軒が突然消えて
それが何だったのかも思い出せないように
きっと大切だったことを
なんと伝えればいい?
だれに伝えればいい?
いつかは届くだろうなと空に飛ばした
軽い独りよがりの言葉がたどり着く先がある
そんな保証など何処にもないことを知っていたら
知っていたなら
大切なことは失った後に気付くというけれど
あなたは大切なことだけを荷物に入れて
どこかへ去ってしまったね
私に残したのは 虚しい希望だけ
「待ってて」
その想いが届く先がきっとあるんだって
紙飛行機で飛ばして 返事を待ちぼうけ
#101「時計の針」
チックタック
あなたはホントにうるさくて
世界で一番やさしいの
「チックタック」
おばあちゃんちにあるハトさんのとけい
おばあちゃんみたいに、はなしかけてくる
「チックタック」
きょうはいやなことばっかりでさ
「チックタック」
もうおべんきょうもいやになっちゃう!
「チックタック」
すこしおひるねしちゃおうかな
「チックタック」
おやつのじかんに、おこしてね…
チックタック
チックタック
チックタック
チックタック
チッ…
時間に正確なあなたの優しい声が
時間を忘れるほど大切な居場所だったの
私と一緒に進もうね
止まってもまた動き出せるでしょ?
私が止まるときが、あなたの止まる時って
約束したでしょう…
#100「返却期限」
山のように人の言葉を借りる
返却期限までに返せるかわからないから
今日も延長を繰り返している
他人から借りた言葉でしか
わたしは自分の感情を表せない
まるで赤ちゃん、みたいだね
あらゆる罵詈雑言を自らの頭で、表現で
振り絞って怒り狂うヒトの方が
よっぽど大人に見えてしまう
物書きに向いていない
俯瞰した物語に、結局酔ってしまっている
だからいつまでも大人になれないのだよ
借りたものを全て返すには
大人にならなきゃいけないのに
今日もわたしは、ワガママなわたしのためだけに
他人の言葉の羅列を読み取った
「ピッ」
「誕生日おめでとう」
いつか世界が終わるとしても
目を星のように輝かせ、拙いプレゼントを
喜んでくれたあなたを思い出すでしょう。
いつか世界が終わるとしても
誇らしげに手渡してくれた折り紙を走馬灯に
あなたがいる明日を願うでしょう。
いつかあなたが誕生日を呪ってしまう日がきたら
わたしと一緒にあなたの奇跡を祝おう。
出会ってくれて、ありがとう
この世に生まれてきてくれて、ありがとう
どうか幸せをくれたあなたが
一番幸せでありますように。
#99「ここにある」
もう何年もかいていない
ワタシを形作るなにかを、産み出せなくなった
岐路に立たされている
どこに行けばいいかなんて分からない
大人になっていく、サナギの自分を恥じなくては
悩む暇もなく、これから厳しい季節がくる
そして容赦なく花は咲く
そこに舞うキミの姿を想像して少し、悔しい
もう何年もかいていない
胸のうちに残した、ぐらりと光る黒曜石
あの頃の輝きはヒンヤリと冷めてしまったけれど
手のひらに感じるギラギラとした熱情
ワタシの気のせい、なのだろうか