#99「ここにある」
もう何年もかいていない
ワタシを形作るなにかを、産み出せなくなった
岐路に立たされている
どこに行けばいいかなんて分からない
大人になっていく、サナギの自分を恥じなくては
悩む暇もなく、これから厳しい季節がくる
そして容赦なく花は咲く
そこに舞うキミの姿を想像して少し、悔しい
もう何年もかいていない
胸のうちに残した、ぐらりと光る黒曜石
あの頃の輝きはヒンヤリと冷めてしまったけれど
手のひらに感じるギラギラとした熱情
ワタシの気のせい、なのだろうか
#98「見知らぬ街」
ここにはいられなかった
神々の奇跡をAIだと刷り込まれた世界は
カプセルの中で死を待つのみだ
だれも自分を信じられないんだな、と思う
もし最後の審判がきたとしても
人類は笑いながらカメラを向けるのだろうか
「こんなの、現実じゃない」って
ふと、墓場はここで良いのだろうかと
警鐘がボクの頭を揺り起こした
未知との邂逅への高揚に
足は自然とスニーカーを履いていた
死よりも想像のつかぬ未知の星
天国の経由地にはちょうど良いだろう
ボクは、船に乗った
もう助からない遠くで嘲笑う人々を
弔うように見送って
そうして案外、ボクの視野も狭いのだなと知る
死地に向かうカメラマンの気分だったが
旅人は思ってもいない歓迎を受けた
故郷の地球とは似たようなものばかりでも
未知は好奇心のスパイスとなる
目に映る全てが、艶やかに光って
手に触れれば暖かかった
この星で感じた唯一のかなしみは
幸せという感情だけが、地球がまだ明るかった頃と
なんら変わらないという事実だ
けれど、帰りたいとは思わなかった
それは見つけてしまったから
ボクの内に奇跡があることを
それは、もっと先へと羅針を動かした
知ることを怖れなかったボクは
宇宙人の一員となった
未知は、この世で最強の魔法で
まるで禁断の果実のよう
恐れるのも仕方がないよな
でも、その先が楽園だったことを誰が知ろうか
足跡を残した未知の星
ボクはそこで、自らの奇跡を再出発させたのだ
#97「遠雷」
雰囲気変えた?
青い蛍光色リングに照らされた
対極のベースメイクの君
やっとのことで蝉の声
ギリギリ気分の夏休み
雑踏の中から連れ出して
淡い桃色の入道雲の
マイクロファイバーみたいな光を横目に
遠くの雷鳴が糸を引いて小さくなっていく
#96「太宰治の食べたカレーは何辛だったのか」
カレーの辛さはストレス耐性に比例するらしい
インド人の強者感が際立った
#95「足音」
あなたの足音はどんな音?
分からないまま大人になったぼくは
旅立った君へ想いを馳せるよ
君はだって、儚いから
足音が聞こえる
却下のハンコを叩きつけるような音が
ぼくを値踏みするためにやってくる
汚した手を洗わずに
人を値踏みした足だけを洗って
誤魔化すようなやつら
彼らに付いた足枷のおもしが
何年もかけて整地したコンクリートを
容赦なくゴリゴリと削って行く
追いかけてくる
ぼくはいつだって飛びたくて
泣いて力んだ背中から
ふわりと羽が生えることを望んだ
太陽で羽が溶け、落ちていった先が
今は無き、公園の砂場だったら良いのに
小さな罪も、努力も、笑い声も
全てがキレイに崩れて沈んでいくから
あの足音がやっと聞こえなくなる
まさに、ぼくの天国だ
あなたが水を求めて
ぼくを拐っていってくれたあの日
地球を見て初めて、胸の痛みを覚えたよ
けれど足枷のないあなたは
カラカラと笑って旅立ってしまった
まるで小さな王子さまのように