終点 夏月駅
とある夏の日の夜。──途方に暮れた男がいた。
「ここは、一体どこなんだ?」
流れるような冷たい風が、パニックで熱くなった頭を撫でた。
お祭り
石造りの階段、さん、にい、いち──
鳥居の前でお辞儀をして、端を通り、手を口を清め。前坪の間がじくじく痛むのを堪えて、踏ん張りながら歩いた。
目的地は神社の奥の公園。あそこは花火が、頭の天辺に落ちてきそうなくらい、迫力満点で近く見える。
「……まだ1時間もある」
時計を見ると、花火大会まで時間に結構余裕があることがわかった。
そう急いで来ても、なんの意味もない。
なんとなく恋愛小説のように想い人に会えるものと想っていただけだ。
「凪里くんに会いたかったなぁ」
お盆まで二週間以上ある。凪里くんはまだまだ帰ってこれない。
露店で売っていた、ソースでぬめるジャンクな焼きそばを乱暴に口に入れ、涙で味を濃くした。
何度も落ちてくる袂に苛立ちを感じる。
「見て、夕焼けが、綺麗だね」
彼の言葉を思い出してみても、苛立ちは止まらない。
「日は落ちてても空、ずうっと真っ青なの」
思い出の再現をしてくれない。
風だって去年はこんな悲しげじゃなかった。
ハンディファンで乾いた涙は、拭っても、張り付いて離れてくれなかった。
夏
ツンと冷たいアイスを豪快にシャクシャク食べる。歯に残る余韻が熱い風で忘れられていく、たちまち海の匂いで満たされた。
砂浜の大きな石ころを、足つぼ代わりに踏みしめる。スッと寄ってくる波がくるぶしまで覆った。勢いで服のままザブザブと奥の方まで。持ち上げたスカートの裾が、水を吸って藍色に。元の色よりこっちがいい。
ここではないどこか
ここではないどこかなら、生きやすいのかな?
異世界に転生だの転移だの、羨ましい。イギリスとかフランスに行けば少しはそういう気分になれるのかな。知らない言語で、文化で、生活でもう一度人生をやり直す。やり直したい、立派に生きていきたい。
今の弱い自分が嫌だよ。でも世界で私を愛してくれるのは私だけ。他人だったら絶対嫌い。でも愛してる、大好きだよ私。死んでほしいんだけどね。
1年後
自分と闘い続ける自分でありたい。
いい女になりたい。
曙みたいな肌で、薔薇のように瑞々しい唇、髪の一本一本から花の匂いがするような女になりたい。体のラインがダビデ並に美しい女になりたい。いやヴィーナスだ。ヴィーナス。
上等な着物を我のものにできるぐらい品のある女になりたい。心も体も磨いて魔性の女になる。
心に余裕を持ちたい。心の浮き沈みが激しすぎて疲れるなんてもう嫌。私は自分を誇りたい。どこに出しても恥ずかしくない自分になりたい。
誰か一人だけでいいから私の内面も外見も丸ごと愛してほしい。
1年後じゃ難しいね。けど私が生涯をかけてやりたいと思ったことってこれだったわ。