碧海 彩咲

Open App
3/1/2024, 1:15:38 PM

『欲望』

欲って、砂みたいなものじゃないのかな。
なかなかに掴めなくて。
両手のひらに掴める分しか本当は必要ないのに、もっともっと、って更には抱え込もうとする。
でもそうすると、本当に必要なものが来た時に掴めなくなっちゃう。
そして時々、こぼれ落ちた砂の中から大切な宝物がひょっこり顔を出しているのに拾えなくなってしまう、なんて。
だから僕は手に収まるだけの砂を手に、固く握りしめてる分だけあればいいと、そう思うんだ。

でもその様は、どうやらはたから見たら奇妙らしい。
だからか昔から欲が無いね、と言われた。
人並みにあるよ、と言っても信じてくれなくて。
何かを好きになることはあった。
でも、一番じゃなくても別に良かった。
嫌いなものもちゃんとある。
でも、すぐに関心が無くなるだけ。
欲しいものも、やりたいことも、将来の夢も、何もかも。
有りはした。でも、その為に何かしらの衝動が訪れることは無かった。
だから、驚いた。
君に、出会ってから。
どんな風に呼吸をしていたか、忘れるくらい。それくらい、君が欲しいと思った。
誰かの手からこぼれ落ちる砂を、遠くから眺めていただけの僕が。
必死に握りしめて逃さない方法を探すくらい。それくらい、君を求めていた。
嗚呼、君の手のひらに僕色の砂が一粒でもあったら、どれほど幸せだろうか。
そうして今日も、両の手のひらから夥しい量の砂を零しながら風に乗って君の元に飛んでいけ、なんて願ってしまう。
そんな浅ましい僕の、精一杯の恋心。

2/29/2024, 12:27:52 PM

『列車に乗って』

君の歌が好きだった。
ゆらゆら揺れては、出鱈目な詩を紡いで突拍子もない節で歌う、その様が。
何も見ていないようで、心理を見つめているようなその双眸が。
細長いのに、意外と厚いその体躯が。
だけど、ひとつ嫌いなところがあった。
私を、置いていったところが嫌い。
ごうごうと燃え盛る炎の中、安全地帯にいたはずの彼が自分より私を優先にする為に火に飛び込んで私を担ぎ上げたその瞬間、私は初めて彼に罵声をあげた。
ただ一言、「馬鹿」って。生まれて初めて彼に言った、傷つけるための言葉。
でも、その一言をしっかり聞いたはずの彼がへらりと、あまりにも優しく笑うから。だから、ぎゅうとしがみつくしかできなくて。
でも、ごめんなさいを言う前に居なくなってしまうのは、あまりにも酷過ぎやしないか。
私を助けた彼。
ただの一般人でしかない彼。
火事場の馬鹿力をその瞬間で発揮して、私を担ぎ上げたその彼は、私以上にぼろぼろで、私を安全な場所に連れてきて、そのまま、いなくなった。
私を置いて、亡くなった。
本当に酷い人。
ごめんなさいも、ありがとうも、何も聞かずに旅立って。
彼らしいと言えば聞こえはいいかもしれないけれど。それでも、やっぱり怒りたくなるの。私は意地が悪いから。
だから、そんな意地悪な私はたっくさん彼を待たせるの。貴方が退屈になる分のお土産話を携えて。
あの、銀河を駆ける列車に乗って。

2024,2,29 創作開始