碧海 彩咲

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『欲望』

欲って、砂みたいなものじゃないのかな。
なかなかに掴めなくて。
両手のひらに掴める分しか本当は必要ないのに、もっともっと、って更には抱え込もうとする。
でもそうすると、本当に必要なものが来た時に掴めなくなっちゃう。
そして時々、こぼれ落ちた砂の中から大切な宝物がひょっこり顔を出しているのに拾えなくなってしまう、なんて。
だから僕は手に収まるだけの砂を手に、固く握りしめてる分だけあればいいと、そう思うんだ。

でもその様は、どうやらはたから見たら奇妙らしい。
だからか昔から欲が無いね、と言われた。
人並みにあるよ、と言っても信じてくれなくて。
何かを好きになることはあった。
でも、一番じゃなくても別に良かった。
嫌いなものもちゃんとある。
でも、すぐに関心が無くなるだけ。
欲しいものも、やりたいことも、将来の夢も、何もかも。
有りはした。でも、その為に何かしらの衝動が訪れることは無かった。
だから、驚いた。
君に、出会ってから。
どんな風に呼吸をしていたか、忘れるくらい。それくらい、君が欲しいと思った。
誰かの手からこぼれ落ちる砂を、遠くから眺めていただけの僕が。
必死に握りしめて逃さない方法を探すくらい。それくらい、君を求めていた。
嗚呼、君の手のひらに僕色の砂が一粒でもあったら、どれほど幸せだろうか。
そうして今日も、両の手のひらから夥しい量の砂を零しながら風に乗って君の元に飛んでいけ、なんて願ってしまう。
そんな浅ましい僕の、精一杯の恋心。

3/1/2024, 1:15:38 PM