ふわふわとしている。
頭が、身体が、心が。
纒う白い絹。
踏み締める赤い絨毯。
流れ聞こえる囃子の音。
歓喜の色が花として咲き誇る。
傘と角隠しに覆われた表情は分からない。
けれど待ち受ける花婿の表情が物語っている。
この晴れ晴れとした青空のようなその微笑みが。
どこのお姫様だろうか、そう隣に囁いた。
隣から返事はないが、いつもは冷たい手が熱いくらいになっている。
キラキラとした瞳がいつも以上に輝いて釘付けになっている。
どうやらこちらの囁きは一音も届いていないようだ。
ボクらも幸せになろうね。
届かない囁きの答えは、大人になったらもう一度尋ねる事にしよう。
“幸せに”
目元が腫れている。
ほんの少しだけだけれども。
本人すらも気が付いていないのかもしれない。
身だしなみを気にするにはまだ少し早いだろうか。
妻と目が合う。
その柔らかな表情で、同じような事を考えているのはすぐに分かった。
可愛い我が子。
昨日はよく頑張った。
君は一生懸命、自分がするべき事をした。できる限りの事をした。
表立った結果は確かに敗北という形ではあるかもしれないけれど、
君がそれを糧にできる事は誰よりも自分達が知っている。
さあ、今日もいつも通りに過ごそう。
ただし、晩御飯は少し豪勢にしようか。
いや、そんな事をしたらこの何気ないふりもバレてしまうだろうか。
ああ、バレてもみんなで笑い飛ばせばいいか。
“何気ないふり”
はじけるような笑顔が眩しい。
目尻があの人に似ている気がする。
声はあの子に似ている気がする。
耳の形があちらのお家の方たちかもしれない。
やっぱりこのえくぼはあの人に似ている。
小さな手が愛おしい。
小さな重みを抱えきれないのが悔しい。
会いに行ける足はないが、
顔を見せに来てくれる子たちが何より嬉しい。
どうかどうか、この子の未来が素晴らしいもので彩られていますように。
あの人のように、幸せな最期を迎えられますように。
どうかどうか、どうかどうか……。
“ハッピーエンド”
飾られた美術品。
広がる空、流れる雲。
散歩中の犬。
通学路の子ども。
揺れる公園の遊具。
工事現場の職人。
電信柱のカラス。
道端の雑草。
なんて事のないものすら、
君にそれらを見つめられると、少し、寂しい。
“見つめられると”
瞳の先、ふらふらと彷徨う視線は貴女の姿を探している。
向けた足の先、貴女はすでにこちらを向いて笑っている。
発した声の先、ただの挨拶にこんなにも上擦るだろうか。
伸ばした指の先、揺れる髪に触れようとして何故そんな事をと戸惑う。
貴女の視線の先、僕の心臓が震えている。
“My Heart”