5日目:お題『太陽』
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僕は、「あの子は太陽のような人」なんて表現が嫌いだ。
だって、僕の顔の方が熱い
4日目:お題『つまらないことでも』
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「犬ってさ、毎日同じことの繰り返しで飽きないのかな」
飼い犬を散歩させながら、僕は彼女の質問に答えた。
「尻尾振ってるから、楽しいとは思ってると思うけど」
「ふーん、毎日同じルートを散歩して同じ人と遊んで、『つまらない』とか、『刺激が欲しい』とか考えないのかな」
彼女はそう言って、縛っていた髪をおろした。
知らない香りがフワリと香る。
「君にとってはつまらないことでも、僕は毎日幸せだったよ」
「…そっか。」
じっと犬を見つめたまま、彼女はそう言った。
彼女の左手に、「離婚届」と書かれた紙はあったが、僕があげた指輪は無かった。
3日目:お題『目が覚めるまでに』
今回、閲覧注意があります。自己責任で読んでください
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家の近くに、人に近づこうとしない、ガリガリの野良猫がいた。
その猫は、毎朝私の家の前に届けられる牛乳瓶を、私が目覚める前に奪っていく。
どうにかしようと思い、次の日の朝は牛乳が届けられる前に、庭の隅からじっと玄関を監視した。
カラスが我が家のゴミ箱を漁っていたが、猫を捕まえることが優先なので放っておいた。
牛乳配達が来たほんの数分後、例の野良猫が来た。
バッと牛乳瓶を器用に転がして草むらに消えていく猫を、大股で追いかけた。
何かを蹴ってしまった感覚の後、パリンッとガラスの割れる音がした。
周辺に、腐った牛乳の匂いが立ち込んだ。
ガリガリの野良猫はじっとこちらを見つめている。
野良猫の背後には、小さなボロ雑巾があるかのように見えたが、それは5匹の子猫の死体だった。
「野良猫。お前の子どもは、もう牛乳を飲むことは出来ない。これはお前が飲むべきだ」
大量に転がっていた牛乳瓶の中から、今日の日付が書かれたもののフタを開け、手のひらに注いだ後、野良猫の口元へ近づけた。
「にゃー」
死にかけた老婆のような声で鳴き、猫はそろりと腐った牛乳が広がった地面を舐めた。
その周りには、抜け落ちたカラスの羽や血痕が至るところに散らばっている。
きっとこの猫は、毎朝子猫が目を覚ますまでに食料を調達していたのだろう。
腹を空かせたカラスが子猫を襲ったのだろうか。
それともカラスは死体を漁ったのだろうか。
どちらにせよ、野良猫はまだ子猫が眠っているだけだと信じて、いつものように我が子の目が覚めるまでに食料を調達しているのだ。
「野良猫。この子たちの墓を建てたら、お前は自分の餌を調達しようと思うだろうか?」
「にゃー」
野良猫はまた、死にかけた老婆のような声で鳴き、地面に広がった腐った牛乳を舐め続けた。
2日目:お題『病室』
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私はメダカなので湖にいる。
狭い湖だが友達がいるので飽きない。
そいつはメダカのくせに「外へ出てみたい」と仕切りに言っては、時折私の横を通り過ぎて遠くへ泳ぐ。
私も必死で追いつこうと泳ぐのだがいつも追いつけない。
遠くへ泳いだそいつは、白い岩の向こうへ消え、何時間もした後にいつもより疲れた顔で戻ってくる。
「きっと湖の端まで行って地上を歩く練習をしているんだ」私はそう思った。
「いいか、私たちはメダカだ。地上で息をすることは出来ない」
そいつはいつも、聞こえないフリをして白い砂の下に隠れる。
ある日、またそいつが遠くへ向かって泳いだ。ついて行こうとしたがやはり追いつけなかった。帰りを何時間も待ったが、そいつは戻ってこなかった。
「メダカのくせに、湖を出ようとするからこうなるんだ」
私はそいつを迎えに行こうと、また白い岩の方へ泳ごうとしたが進めない。
疲れて少し離れて見たあと、私はようやく、自分が今までガラスにぶつかっていたので進めなかったことに気がついた。
助走を付けてガラスの上へ向かって泳いだ。
ぺちゃん。
変な音だ。私はその音を聞いた後、上手く息が吸えなくなった。
「メダカが水槽から飛び出してる!」
子どもが看護師を呼ぶ音だけが、病室に残った。
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「病室しか知らない子」
1日目:お題『明日、もし晴れたら』
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「うわー、雨降ってる…」
彼女が食材でパンパンになった袋を片手に呟いた。
「ほんとだ…俺、傘持ってないな…持ってきてたりする?」
「持ってないなー。どうしよう…買ってこようかな。うちにある傘もオンボロばっかだし、買い替え時かも」
「そう?傘ってさ、雨の日よりも晴れてる時に買った方がいいんじゃない?」
「なんで?」
彼女が不思議そうにこちらを見上げた。
「雨の日に買ったら『今、傘買わないと!』って思いながら買うじゃん?雨降ってる中、何件も傘を探そうとは思わないし。1番良い傘を探さずに手っ取り早く決めるんだよ」
こちらを見つめたまま頷いた彼女から視線を逸らし、握りしめた手に少し力を入れて言葉を続けた。
「ほら、自分に似合う傘に出会えるのは晴れの日でしょ?明日、もし晴れたら傘選びに行こうか?俺もついてくよ」
「いやいや、彼氏に怒られるでしょーwあっ、そっか。電話して車で迎えに来てもらおうかな。ついでに送ってもらえるか聞いてみる?」
「いや、大丈夫!…近くだし、なんかすぐ晴れそうじゃん?走って帰るわ」
「えっ、すごい雨だよ!まっ…」
雨の中に走って進めば、彼女の声が雨音にかき消された。
「せっかく偶然会ったのに。傘…持っておけば良かったかも」
#明日、もし晴れたら