2日目:お題『病室』
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私はメダカなので湖にいる。
狭い湖だが友達がいるので飽きない。
そいつはメダカのくせに「外へ出てみたい」と仕切りに言っては、時折私の横を通り過ぎて遠くへ泳ぐ。
私も必死で追いつこうと泳ぐのだがいつも追いつけない。
遠くへ泳いだそいつは、白い岩の向こうへ消え、何時間もした後にいつもより疲れた顔で戻ってくる。
「きっと湖の端まで行って地上を歩く練習をしているんだ」私はそう思った。
「いいか、私たちはメダカだ。地上で息をすることは出来ない」
そいつはいつも、聞こえないフリをして白い砂の下に隠れる。
ある日、またそいつが遠くへ向かって泳いだ。ついて行こうとしたがやはり追いつけなかった。帰りを何時間も待ったが、そいつは戻ってこなかった。
「メダカのくせに、湖を出ようとするからこうなるんだ」
私はそいつを迎えに行こうと、また白い岩の方へ泳ごうとしたが進めない。
疲れて少し離れて見たあと、私はようやく、自分が今までガラスにぶつかっていたので進めなかったことに気がついた。
助走を付けてガラスの上へ向かって泳いだ。
ぺちゃん。
変な音だ。私はその音を聞いた後、上手く息が吸えなくなった。
「メダカが水槽から飛び出してる!」
子どもが看護師を呼ぶ音だけが、病室に残った。
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「病室しか知らない子」
8/3/2023, 9:02:56 AM