ゆかぽんたす

Open App
3/3/2024, 7:45:06 AM

「逃げろ」
そう言って、兄さんは僕だけを逃がすと自分はあの業火の中に消えていった。まさか、あれが最期の言葉になるだなんて。

僕には特別な力がある。それを手に入れるために悪い大人たちが僕の命を狙っているんだって。そんな話を聞かされたのはいつだったか。初めは半信半疑だった。だって、人と違うところがあるなんて全く思い浮かばなかったから。ただ、小さい頃からちょっとだけ先の未来のことが暗示できたり、明日起こることが見えたりするくらいだった。それが特別な力だと自覚するのは歳が2桁になった頃だった。周りの人は、僕を恐れるタイプと羨ましがるタイプの2つに分かれた。この力のせいで離れてゆく友達もいた。逆に興味を示して近付いてくる人間もいた。僕のせいで僕の家族と他人が言い争うところも目撃した。僕は悲しかった。こんな力があるせいで周りの人に迷惑がかかってしまう。心が痛かった。あの頃から泣けない子供になっていた。

でも、そんな僕に兄さんはいつも言ってくれた。
「お前は俺たちの希望なんだよ」
あの頃は、どういう意味なのか全く分からなかった。でも成長した今なら何となく分かる気がする。僕のこの力で国を救えるかもしれない。未来予知をすることで助けられる命があるかもしれない。そう思えるようになったから僕も兄さんと同じ軍隊に入団した。そして初めての出動要請をうけて駆けつけた場所で。僕らは見事に敵陣の策にはまってしまった。我を忘れて逃げ惑う仲間が沢山いた。そっちに逃げたらいけない。未来が分かる僕は大声で叫んだけれど、その声も虚しく何人もの仲間たちが戦火に焼かれていった。もう駄目だ。この戦は大敗だ。僕も同じような道をたどるのは時間の問題だと思った。
だがその時。
「お前だけでも生き延びろ」
強い力で背を押された。押したのは、紛れもない兄だった。
「お前は俺たちの、たった1つの希望だ」
また、あの時と同じようなことを言って兄は僕から踵を返した。もう2度と振り返ることはなかった。僕は追い掛けたかった。けれど火の海に行く手を阻まれてしまいできなかった。兄さん、兄さんと声が枯れるまで呼び続けた。それでも兄は、2度と僕の前に姿を現すことはなかった。
僕のせいで兄さんは命を落としたんだ。そう思うしかなかった。ひとしきり泣いた後でもいくらでも自分を責めることができた。でも、兄のあの言葉が耳からこびりついて離れなかった。
「お前はたった1つの希望だ」
僕は、希望。
僕は立ち上がった。泥と涙で汚れた頬を拭って焦げ臭い平野を歩き出す。まだやれることがあるんじゃないか。そう思えたら途端に足が勝手に動き出していた。見えた未来は今から数時間後。またここに火の玉が飛んでくる惨状だった。止めなければ。僕は希望なんだ。何としても未来を変えてやる。僕ならできる。見ててくれ、兄さん。僕は今から希望になる。

3/2/2024, 9:11:31 AM

まだだ。こんなんじゃ足りない。

僕を陥れたこと心の底から後悔してもらわないと。
君は自分の身を守るために逃げたつもりなんだろうけど、僕にとっては裏切られた気分だよ。

どうして僕から離れるの?君には僕が必要ないの?
そんなこと有り得ない。有るはずがない。
じきに君も分かるよ。とんでもないことをしてしまったと思い知るだろうね。

可哀想に。でも赦してあげない。暫く僕の玩具になって反省してごらん。その先のことは僕にも分からない。君が更生するか僕が君に飽きるか、どっちかだろう。どちらにしても君はもうここから出られない。今のうちに僕に従う姿勢を見せたほうが賢い選択だとは思うけどね。

時々分かんなくなるんだよね。僕は君が欲しいのか、それとも君を壊したいのか。一度壊してみれば分かるだろうか。でももし破壊欲じゃなかった場合、取り返しがつかなくなるんだよな。
どうしようかな。試す価値はあっても君がひとつしか無いんじゃあな。

どうしようか、君が決めて?
一生僕のものになるか。
僕の手で終わらせるか。

2/29/2024, 11:37:40 PM

見えてきた。
田舎道、菜の花畑、大きな桜の木。黄色と緑とピンク色が綺麗に融合し合っている景色。あぁ春だなあと思うと同時に、あぁ懐かしいなあとも感じてる。
いつだったか、あの桜の木に登ってみようかって話になったよね。どの子が言ったのかは覚えてないけど、そんなやんちゃなこと言ったんだから男子だったのは確かかな。でもそれを聞いたキミが顔を真っ赤にして怒ったんだ。桜も生きてるんだからいじめないでって。あの時みんな馬鹿にしてたように笑ってたけどさ、僕はキミのこと、優しい心の持ち主なんだなって思ったよ。何より君の意見に賛成だったしね。登った拍子にあんな綺麗に咲いてた桜が散ったら可哀想だもんね。だから、あの時のキミの発言は正しいと思った。
この列車からの景色を見てると、不思議とキミを思い出してしまう。毎年必ず春はやって来るのに、キミはもうこの街には帰ってこないのかな。僕ら互いに、自分の道は自分で選ぶほどに成長したわけだから、キミがどこで何をしていようとそれを誰かが止める権利は一切ないのだけど。
いつか春風のように、ふんわりと舞う蝶のように、キミが僕と同じように列車に乗ってここへ帰ってきてくれないかなって少し期待してるんだよ。そうしたらまたあの桜の木を一緒に見たい。
そんな日がいつか訪れたらいいな。
春を愛する人を思い浮かべながら、僕の体は列車に運ばれてゆく。青い春に向かって。

2/28/2024, 12:51:37 PM

出発の日、決まったよ。急なんだけど3日後。だから荷造りたーいへん。もうこの際、最低限のものしか持たないけどね。荷物が多いとろくなことないし。
行き先?んっとね、遠くの街……って、そういう答えじゃないか。でもとにかく言葉のとおり。遠くにある街が最終目標の行き先。そこにはあたしの尊敬する有名なプロフェッサーがいるの。死ぬまでにいつか、絶対に会いたいなって思ってた人。あたしの夢。
そりゃ長い旅に不安はあるけど。でも、それ以上になんかわくわくするんだよね。どんなことがこの先待ってるんだろーって、考えるだけでうずうずしてこない?だってこれから会う人みんな“はじめまして”なんだよ?それってなんか、すごくない?
……あれ、なんでひいてるの。え?共感しがたいって?なんでよ、めちゃくちゃ楽しみなことじゃん。ここにずっと死ぬまで一生いるなんてあたしには考えられない。気が狂いそうだもん。あ、ウソそれは言い過ぎた。昔からこの街にいる人で素敵な人たちいっぱい知ってるから。少なくともあたしは、って意味ね。
そーだよー、世界は広いんだから。なーんて、まだここから飛び出してないくせに偉そうなこと言えないけどね。でも、これからそれをこの目で確かめてくるから。それでいつかまた、巡り巡ってここに帰ってくる日ができたら、沢山の土産話聞かせてあげるね。楽しみにしててよ。
ん?ちょっとは寂しがらないのか……って、そっか、ごめんごめん。あたし、自分のことばっかだった。そりゃしばらく会えなくなるのは寂しいけどさ……でも、永遠のお別れじゃないから。ポジティブでしょ、あたし。えへへ、これだけが取り柄なんです。あたしのポジティブがきみに少しでも分けられたらいいのにね。
でも、そんなことしなくてもきみは実は強い人なんだって知ってるよ?だからあたしが戻ってくるのを楽しみにしててね。なるべく老けないように努力するから。あーっ、笑ったなっ。けっこう真面目な問題なんだからね?次、会った時も可愛いって思われたいもん。そりゃあ女の子ですから。あはは、元気出た?きみは笑ってたほうがいいよ。そのほうがモテるから。何よりあたしも、きみの笑顔大好きだから。

ありがとね、勝手なあたしを許してくれて。

行ってきます。

2/28/2024, 9:02:35 AM

暑くもなく寒くもない部屋で
じっと動かないでいたいな
誰とも接したくないし
誰にも関わられたくない
そういうのを“独りよがり”だとか
“殻にこもる”と言うけれど
自分の身を守るために本能的に
外の世界との繋がりを切りたい時だってある
どうせ眠っても目が覚めたら現実なんだ
夢の中や自分の都合の良い世界が
このままずっと続けば良いのにな

僕はわりと恵まれているほうに値する人間だと
自分でも自負している
けれど欲望や悩みは常に泉のように湧き出してくる
きっと無い物ねだりなんだろうな
それは一種の病かもしれない
こんな現実欲しくないや

辞めたい棄てたい逃げたい消えたい
負の連鎖が頭の中でいつまでもできている
ここで逃げても意味はない
そんなことは知っている
でもどうにもならない
だから同じことを繰り返す
自分で自分を傷つけているのに見て見ぬふりする

嗚呼
今日も空は青い
現実も夢の中も空は青かったな
でもちょっと現実の空は
僕には眩しすぎて辛いな

ところで
逃げることは恥ずかしいことなのかな
現実逃避とは
愚か者がすることなのかな
答えは誰が教えてくれるんだろうか
認められたいな
誰でもいいから僕のこと

認めてくれないかな

Next