ゆかぽんたす

Open App
12/13/2023, 8:43:56 AM

頭じゃ分かっててもどうにもならないことだってある。私がきみに抱いてる気持ちがまさにそれ。
好きになっちゃ駄目なんだって、分かっててもやっぱり無理だった。もう誰かのものであるきみに恋したって実ることは絶対にないのに。分かっていても、どうにもならない、行き場の無い気持ちを心のなかに秘めている。これは誰にも知られずに死んでく感情。本当は、思いっきり“好きだ”って叫びたいんだよ。叶わない願いをそっと自分の中で押し込める。難しいなあ、上手くいかないなあ。人の心って、複雑で面倒で繊細でややこしくて。私の心だけがそうなのかな。きみの心は今、健康?目に見えたら良いのにな。もし、人の心を覗き見ることが私にできたのなら。きみが誰かのものになっちゃう前にどんな手を使ってでも私のものにしたのにな。

12/12/2023, 9:26:22 AM

「何かあったの?」
「へ?」
大して仲良くもない、会話もそんなにしたことがないクラスの女子にそう聞かれた。僕は思わず面食らってしまう。何かあったかって。まぁ、あったはあったけど。
「気づいてないの?」
「……なにが?」
「あなた、とっくに限界なのよ。私ね、人の心臓の色が見えるの」
意味が分からなくて返事もできなかった。そんな僕を見て薄く笑う彼女。いきなりそんな話しても信じてもらえないだろうとは思っていたらしい。
「えっと、ちなみにどんな色してるの。僕の心臓」
「すっごく濁った灰色。もう少しで真っ黒になっちゃいそう」
だから、早急に休んだほうがいいよ。僕にアドバイスをくれてから彼女は教室を出ていった。残された僕は自分の胸に視線を下ろす。当然、見えるはずがない。彼女には僕の体が透けて見えているとでも言うのか。あまりにも信じがたい話だった。けれど疲れているのは事実だったから、言い当てられてびっくりした。
ここ最近は色んなことがあった。気が滅入ることも思い出すだけで怒りが込み上げてくることも。でも、落ち込んだって怒ったってどうにもならないことだから仕方ないんだ。そう言い聞かせていた。仕方がないと、毎晩心に言い聞かせて眠るようにしていたのに。本当はかなり傷ついていたらしい。何でもないようなふりをしていただけで、きっと心の奥底はそれなりに重症だったんだな。彼女に言い当てられたことであれもこれもと思い当たることが頭の中に蘇ってきた。
僕の心臓は灰色。それはなかなかショックなことだ。彼女の言う通り、早急に休息をとらねば。じゃあまずはこの後さっさと帰ることだ。もうあんな奴らのパシリになんかならない。怖いけど、不安だけど、自分の気持ちを伝えなければ何も始まらないから。ごくりと唾を飲み込み、僕は教室を後にする。そして、あいつらが待ち構える屋上へ。心臓に手をやり歩き出す。もう、何でもないフリはやめだ。

12/11/2023, 7:55:38 AM

僕らずっとこのままここにいられたらいいのにね。この先も変わらず仲良くやれる自信があるよ。
でも現実はそうはいかないな。僕は僕の、君には君のやるべきことがある。夢も希望ももちろんある。その道が、仲間だからといって決して同じ方向とは限らない。だから今、僕らは互いの道に進もうとしている。ただそれだけさ。だから別れなんかじゃない。歩く道が違えど仲間なのは変わらないんだ。
次に会う時も、いつものように変わらず話しかけてくれよ。額を合わせて拳をぶつけて、また変わらずにくだらない話をしようぜ。その日が来年なのか、10年後なのか50年後なのか分からないけど、その時にまた“相変わらず”な君が見れることを楽しみにしているよ。

Viel Glück!
僕の、親愛なる君へ。

12/10/2023, 8:17:57 AM

ずっとずっとずっと。
この手を離さないでね。
約束だよ。

そんな、幼い頃の口約束を君は今も馬鹿みたいに守ってる。私が、少しでも落ち込んだり不安を抱えたりする素振りを見せるとそっと抱きしめて手を握ってくれる。そうしてもらえるだけで私は満たされるけど、果たして君はどうなのかな。もう、こんな茶番にうんざりしてるんじゃないのかな。本当は早く私から解放されたいって思ってるんでしょ。
それが分かってても私は君を離してあげない嫌な女なの。ごめんね、君の意思はとっくに分かってる。ここに愛が無いということもだいぶ前から気づいてた。それでも私には君が必要で。君じゃなきゃ駄目で。この先もずっと君と手を繋いでいたい。我儘の塊だと分かってる。君を自由にしてあげない私と、嫌々ながらに私の手をとる君。どっちのほうが酷いんだろうね?やっぱり私なのかな。
けどそんなことはどうでもいいの。君がぎゅっとしてくれてる今、そんなくだらないことは考えたくないや。君を離さないように、君が離れないように。私は思いきり君の手を握りしめた。

12/9/2023, 5:19:31 AM

インターフォンが鳴ってリビングのモニターを見てみたら、ありえない人が映っていた。
『寒いから開けてよう』
首をすくませコートのポケットに手を突っ込んでぶるぶると震えている彼は正真正銘、私の夫だ。外は薄暗いけど見間違えることはない。でもどうして彼が居るのだ。何かのドッキリにでも仕掛けられてるんじゃないかと思ってしまう。一般家庭なら夫が家に帰ってくる、ごく普通の状況かもしれないが、私にはあってはならない状況だ。何故なら、彼は昨年死んだのだから。
『早くー。凍死しちゃうよ』
もうとっくに死んでるでしょうが。心のなかで突っ込みを入れながら玄関のドアを開けた。
「やぁ」
「なんなのあんた」
「相変わらずドライだなぁユリちゃんは」
よいしょ、と靴紐を解き家に上がる夫(仮)。コイツ、本気なの?
「そんな物騒なもの持たないでよ。せっかく会いに来たんだからさ」
「……何しにきたの。あんた誰」
質問しながら、後ろ手に隠し持っていたフライパンをテーブルに置いた。何か変な真似をしようものならこれで殴りかかろうと思っていたけど、どうやら私を陥れるようなつもりはないらしい。
「今日だけ、時間をもらったんだ」
「時間?」
「そ。大好きな人に会えるキャンペーンに応募したんだ。そしたらその抽選に当たってさ。だから今ここにいるわけ」
ちっとも意味が分からなかったけど、兎に角彼が言うには、限られた時間ではあるがこうして現世に戻って来ることが出来たらしい。
「ほら、来週は僕の命日でしょ?」
「あ、そっか……」
早いもので、彼がもう死んで1年が経とうとしている。少しは気持ちは落ち着いたけど、今日まで彼が私の頭から離れることはなかった。だから今、こうして目の前に現れても“久しぶり”という感じにはならない。
「ユリちゃんに伝えたいことがあって」
私の知ってる笑顔がすぐそこにあった。彼は今、間違いなくここに存在している。私の手を握っている。なのに死んじゃっただなんて、やっぱり嘘だったのかと思ってしまう。
「ありがとう、ごめんね」
「なんで、」
「どうしても言いたかった。言えないまま僕は逝っちゃったから」
これを言いたくて、冥界からはるばる来たと言うの。そういう所、なんだか貴方らしい。生前は、“言いたいことは何でもはっきり言うべきだ”ってよく口にしてたくらいだったよね。白黒つけなきゃ気が済まない、曲がったことが嫌いな人だった。だから今の言葉も、私にどうにか伝えるまでは死んでも死にきれなかったのかもしれない。
「こちらこそ」
そう返事するのが精いっぱいだった。これ以上喋ると色々なものが込み上げそうだった。馬鹿だよね、私も貴方も。もっと生きてるうちに、ありがとうもごめんねも言えるタイミングがあったはずなのに。
でも、こうして伝えに来てくれたことがすごく嬉しい。今日という日を、私はこれからもずっと忘れないから。

Next