ガルシア

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4/16/2023, 1:50:24 PM

 彼女の柔らかい身体を抱きしめて数十分は経っただろうか。腕で引き寄せ、足で囲ってしまえば、小柄な彼女はすっぽりと俺の中に収まる。俯いているため顔は見えないが、どうやらだいぶ落ち着いてきたらしい。細い腕を伸ばして横にあったティッシュを引き抜くと、鼻をかみ、涙を拭き、小さく丸めてゴミ箱に入れた。泣いているときでも綺麗好きなところは変わらない。
 落ち着いた?
 艶やかな髪を撫でながら最大限の優しい声で語りかけると小さく頷く。こうして彼女を慰めるのも慣れたものだ。ずっと昔から母親の過干渉やヒステリーに参った彼女が縋るのは俺。迷惑と思ったことはないし、むしろ役得だ。幼なじみというだけで人間関係にまで口出しする母にも見逃され、彼女を抱きしめることもできている。
 あのね。
 小さく小さく、震える声で彼女は言葉を紡ぎ始めた。感情の許容量を越えると怒声の代わりに涙が溢れてしまうため、ひとしきり泣き終わってからでないと上手く喋れないのだ。気を抜けばすぐ空気に溶けてしまうその声を、神経を総動員させて聞き取る。
 おかあさんが、あなたとは会うなって。
 前言撤回。見逃されていたわけではないらしい。唯一の依存先も奪って、箱の中に押し込めるつもりなのだろう。それとも、俺が抱く情を見抜かれたか。
 しかしこれも予想していたことではあった。金は貯めたし、前々から相談していたから、両親も良い顔はしないだろうが反対することもないだろう。このままでは彼女は粉々に砕けてしまう。
 ねぇ、逃げようか。二人で生きよう。

4/15/2023, 1:29:40 PM

 ガチャン、と音を立ててチープな器具は役目を終えた。彼女の薄い耳朶を貫いたそれを外してみれば、白い肌を飾るように小さな石が光っている。予想通り、深海のような青が良く似合う。
 心から嬉しそうにお礼を言った彼女は思いもしないだろう。友人だという男に傷をつけられて帰ってきた彼女を見たときの、恋人の燃え上がるような嫉妬など。彼女は溢れんばかりの笑顔で俺がつけた傷を自慢し、さらには俺が選んだピアスを外すことなく、定着するまでずっとその傷を気にするだろう。ピアスを付け替えるたび、耳を見るたびに俺を思い出すかもしれない。
 届かぬ想い、なんて馬鹿げた言葉で終わらせるわけがない。ずっとずっと残るキスマークをつけたのは俺の方だよ。ざまぁみろ。精々俺が彼女と結ばれるまで、屈辱に耐え続ければいい。