本気だよって本気で言ったことが無い。
誰かの本気はすべて俺の金に変わる。
いつだって愛は需要と供給のマーケティングゲームだ。
嘘の告白を後ろめたく思ったことはない。
ただ一つ、困るのは、この気持ちをどう伝えたらいいかわからないこと。
言葉は、金は、物は、性は、すべて嘘に使ってしまった。
君に何をあげられたら、俺はこれを本気の恋だと言っていいのだろう。
題:本気の恋
二ヶ月前のカレンダーがかかっている、なんてよくあることだ。
おしゃれだからと買ったウッドブロックカレンダーはただの置物になった。
カレンダーアプリもおしゃれな手帳もいつからかまっしろ。
かろうじて仕事の予定が書かれている。
君の手帳を見せてもらった。
カラフルなペンでかかれた丸っこいイラストやかわいい字。
面白い形の付せん、インクのにじんだスタンプ。
カレンダーは上から下までびっしり。
君がよく持っている太い筆箱には、ほぼ手帳専用の文具が詰まっている。
よくやるよなあ。
君はピンクのペンと、ピンクっぽい赤のペンを選び、日曜日を埋めていく。
私とのちょっとした予定。
ハートのスタンプを句点のように打って、「楽しみですね」と私に笑いかける。
私は、なぜかせかされるように、自分の手帳を取り出すと、黒いボールペンで予定を書いた。
私の手帳に手を添えた君は、ピンクのペンで描き入れる。
ウインクする君の似顔絵だった。
題:カレンダー
終わった後も恋が残っているのは私だけでしょうか。
叶わないってわかっていて、自然と目で追ってしまう。
動きの一つ一つ、言葉の一つ一つ、好きだなと思う。
あなたが好きです。
あなたに恋をしている私が好きです。
まだ終わらせたくないなあ。
私の中にあった恋の輪郭を鮮明に覚えている。
輪郭だけが残った空洞に当てはまるものなんて、この先あるでしょうか。
題:喪失感
たった一度だけ手作りチョコを作ったことがあります。
「初心者でも簡単だから」と友達に言われた、既製品を固めるだけの簡単レシピ。
テンパリングのテの字もわからず、母と試行錯誤した三日前。
たくさん買ったラッピングの中で選りすぐりのかわいいあしらい。
手書きの手紙。
渡せませんでした。
当日の君は、両手に余るほど誰かの愛を受け取っていたね。
凝った手作りも、軽いスナックも、高級な一品も。
「もらいすぎた」なんて言いながら、満たされていたね。
世界で一つだけの私のチョコレート。
その日幾万と誰かの間で交わされたバレンタインチョコレート。
題:世界に一つだけ
質の良い幻覚を夢という。
きっとあなたは台所で一杯の麦茶を飲み干し息を吐くでしょう。
きっとあなたは風呂場でなじみの曲を口ずさむでしょう。
きっとあなたは寝室で眠れない私の頭をなでるでしょう。
あなたの胸に手を置けば、秒針より少し速い鼓動が肌を打つ。
存在しない生き物の存在しない鼓動。
頭より遠くで鳴るその音に耳を傾けて眠った。
題:胸の鼓動