君は高く飛び上がる。ダンクシュート。歓声の圧が体の芯を揺らす。
君は翻る。相手選手はドリブルとともに走り去る。
君はもう追いついて、軽いステップでボールを奪い去っていく。
君は舞う。川の水が流れるようによどみが無い。
僕は客席にいた。頭の中でコートから自分を見た。
客席で、君と同じユニフォームを着て、派手なスティックバルーンを持っている。
座ったまま空笑いで声を出している。
コートにいる自分を想像することはできなかった。
君は最後に跳ね上がる。歓声の圧。
周りに合わせて立ち上がった僕は、力なくバルーンを叩いた。
コートで君とハイタッチする僕の姿は想像できなかった。
あの日までしていたことが想像できなかった。
題:踊るように
一番大事なときはじりじりと、しかしあっさりとやってくる。
ご臨終です。医師がそう告げた。
明日には死ぬと毎日言われていた君の、物言わぬ君の、心電図の音だけが僕の気持ちの頼りだった。
親戚たちは葬式会議をしている。静かにもめている。
誰かが低くもの申しても、沈黙が会議に沈んでも、僕はふわふわとした気持ちでいる。
うれしさでも悲しさでもない。
頭の中にずっと心電図の音がしていた。
今から死ぬ人のゆっくりとした心音がしていた。
題:時を告げる
君が集めている貝殻はすべてごみになる。
砂浜を歩く君は、目についた貝殻をかばんにしまい込む。
空色の貝殻、真珠色の貝殻。
平べったい貝殻、渦を巻く貝殻。
かわいいとかきれいとか言う君に僕は頷く。
君が集めた貝殻は、部屋の小箱にしまわれて、翌日には忘れられている。
同じように、君が集めたきれいなものは、部屋のどこかにしまわれたまま、思い出した頃には感情を失っている。
そうして無感情にゴミ捨て場の肥やしになる。
僕が君にとって貝殻ではありませんように。
題:貝殻
舞台の上に立つ君を照らすのは僕の役目だ。
誰か一人が欠ければ誰も輝けないのは皆同じ。
だけど、君の一番良い角度を、一番良い影を、一番良い輪郭を、照らせるのは僕だけだ。
光が無ければ舞台は始まらない。
僕が君の光だ。
題:きらめき