【こんな夢を見た】
朝、目が覚めて装着していたスマートウォッチを確認する。時刻は7:00を過ぎていた。
いつもならもう出勤している時間だが、私はアラーム意味ないな、とぼんやり思いながら慌てることなくスマホに手をかける。画面の時刻は8:00を過ぎていた。時刻の差に何となく疑問に思いつつ、そんな気に留めることもなく家を出る。
いつもと違う駅のホーム。4つ並んだ自販機のひとつに何故か興味そそられたが、あまり記憶には無い。そうして、私が乗り込んだのは電車ではなく新幹線だった。
職場に着くとほとんど人が居らず、誰かがこんなに人が少ないのはなんでだっけ?と聞いてまわる。
私は出勤していた同僚に何故かお礼を言って、納豆を食べ始めた。
携帯が鳴る。私はスマホを取ると、音を止めた。時刻は6:00を表示している。さっきのは夢だったか、とまだぼんやりしながら、働かない頭で支度を進める。
何となくおかしな夢だったなと思った私は、断片的な記憶を頼りにスマホのメモ帳で記録していた。
【タイムマシーン】
時間を巻き戻せたらいいと思った。そうすれば、無駄なことなんてしなくていい。あの時失敗した告白や受験。格好悪いオレは、全部なかったことになる。
未来を知れたらいいと思った。そうすれば、いちいち無駄な時間を使わなくて済む。何時でも完璧なオレでいられる。
だけど。
目の前にいる彼女は、そんなオレの考えを否定した。
「タイムスリップなんて無くてもいいよ」
「なんで?」
「だって、私は失敗しても挫けないで一生懸命頑張る君が好きだから。楽な道を進んで苦労しない人より、ずっと格好いいよ」
そんな彼女の言葉を聞いて、オレは今のままでもいいか、なんて嬉しく思った。
【特別な夜】
自分が中学卒業を機に、家族全員で田舎から都会へ引越しをすることになった。今日は学校が終わってから、高校受験のため母の車で夕方から都会へ移動する。
引越し準備や学校見学のため何度か行ったり来たりを繰り返しているが、この移動の時間が好きだった。
夜の高速道路は山に囲まれ、明かりも少ない。窓から上を覗けば、きれいな星空が拡がっている。運転する母の眠気覚ましや換気のために窓を開けて移動しているのはこの時期少し寒かったが、自然に囲まれているからか、不思議と気持ちが良い。
途中、サービスエリアに止まって真夜中に温かい夜食を食べたり飲み物を買ったり。
ただ移動するだけだったが、眠るのがもったいないと思ってしまう時間を過ごした。
そうしてちょっと特別な夜を過ごして受験に挑むのだった。
【海の底】
僕が子供の頃、母に寝る前の読み聞かせの絵本を読んでもらっていた。特にお気に入りだったのは「人魚姫」の本だった。小さい頃は本気で海に人魚居たり、竜宮城があったり、財宝があるものだと信じていたものだ。
今、僕はスキューバダイビングのインストラクターをしている。主にライセンス取得者の実践指導を受け持つことが多い。
海の中では、子供の頃夢見たものは見つけることは無いが、子供の頃想像していた以上の景色が拡がっている。危険は伴うが、それでも僕はこの仕事が好きだ。
今日もまた、彼らに海の素晴らしさを伝えるために海へ潜る。
【君に会いたくて】
「よろしくお願いします」
「かしこまりました、では、こちらのワンちゃんを大切にお預かり致しますね」
ボクは狭い箱の中に入れられ、知らない人に預けられる。嫌いな箱の中に大好きなおもちゃと一緒に入れられた時から何となく察していたが、どうやらご主人はまたどこか遠くに出かけるらしい。
最初の頃はすごく寂しくて、いっぱい鳴いて知らない場所から飛び出したこともあった。
それからはご主人はおもちゃと一緒に知らない場所へボクを預けて遠くに行くようになった。
飛び出したあの日、ご主人はすごく心配そうな様子で戻ってきた。ボクはご主人ともう会えないのかと思っていたから、また会えてすごく嬉しかったのを覚えている。
「必ず迎えに来るから」
その時ご主人はそう言った。
「じゃ、また迎えに来るね」
今回も言う。ボクはその言葉を信じて待つだけ。そうすれば、また必ず会えるから。
だけど、実は最近お土産の方が楽しみだったりするんだ。