つつも

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1/13/2024, 12:15:54 PM

【夢を見てたい】

俺は今、知らない橋の上に立っている。
空を見上げると見たことない無数の星。よく写真集にあるような、とても綺麗な星空に息を飲んだ。

俺は当てもなく歩き出した。橋は吊り橋で、幅が広くしっかりしていた。
しかし終わりが見えず、延々と歩いている。疲れはしなかったが、歩くのに飽きた俺は橋に座り込み再び星を眺めた。ポケットにスマホがあることに気がついた俺は、取り出して写真を撮る。
本当に綺麗でいつまでもこうして眺めていたいくらいだ。

いつの間にか、どこからか音が流れてきた。それは段々と近づき、煩わしくなった俺は闇雲に手を伸ばす。

気がつくとベッドの中、手にしたスマホが眩い光を放っている。その中には星空の写真などあるはずもなく、ぼんやりとした頭の中であぁ、夢か。と現実に引き戻された。
きょうは月曜日。俺は重い体を動かし、ベッドから起き上がる。もう少し、夢の中にいたかったと思いながら。

1/12/2024, 2:04:55 PM

【ずっとこのまま】

おそらくほとんどの人が幼い頃経験するであろう、言い間違え。
ウチの子もだんだんと言葉を発するようになり、よくお喋りするようになった。
食事時の時は、
「いたまーしゅ」
(いただきます)と言い、公園に行けば、
「あーしゃ、するででーする」
(お母さん、滑り台する)と可愛らしい言い間違いをする。あまりに酷い言い間違いはさすがに治すが、こういった可愛らしいものは見守っている。

たまに何を言っているか分からないこともあるが、よく近所の子供たちが教えてくれることもある。
子供同士の意思疎通ってすごいなと思いつつ、その日も公園に向かった。

「あーしゃ、すべりだいする」
…聞き間違いだろうか。
「するででーするの?」
私が問うとやはり「すべりだい」と言った。
どうやら近所の子供たちが言い間違いを治してくれたらしい。
これも立派な成長と思いながらも、まだ可愛い言い間違いを堪能したかった私は、なんだか寂しく感じた。
せめて「あーしゃ」だけはもう少しこのままでいてほしいと願うのだった。

1/11/2024, 12:08:26 PM

【寒さが身に染みて】

ハーっと白い息を吐く。今日は一段と寒い。
手足や鼻先が冷たくなるのを感じながら、家へと急いで帰る。

「ただいま」
おかえりなさい、と迎えたのは僕の妻。
「寒かったでしょ、
ご飯温めるから先お風呂入って」
そう言って妻は台所に向かうとテキパキと行動していた。言われるがまま、僕は脱衣所に向かう。

仕事と寒さで疲れきった身体を休めるのに温かいお湯はよく効く。
湯船から上がったあと湯冷めしないよう素早く着替え、リビングへ向かった。
いい匂いに誘われ僕のお腹が鳴る。
食卓に着くと、妻の用意してくれた食事を口に運ぶ。
うん、上手い。スープから野菜の甘みが感じられた。

1/10/2024, 12:08:48 PM

【20歳】

休日に買い物に出ようと、俺は昼間に街に出た。用を済ませ街中を歩いていると、華やかな衣装を身にまとった若い男女の集団とすれ違う。
そういや今日は成人の日か。祝日なんて仕事が休みだ、ラッキーくらいにしか思わないから今日は何の日か知りもしなかった。
俺は当時の自分の成人式を振り返る。

中学の頃、好きだった女の子がいた。だが当時は人目を気にして告白することが出来ず、そのまま卒業した。高校に入ってからお互い別々の高校に通い出した。
時が経ち成人の日、彼女にまだ相手がいなかったら告白しようと心に決めた。会場では浮かれた連中が馬鹿騒ぎしているが、俺にとってはそれどころではない。

その日、俺は撃沈した。彼女に相手はいなかったが、見事に俺の告白は断られた。
振られたものは仕方ない。むしろずっと彼女を思い続けた俺を褒めてやりたいくらいさ。
その後、振られた俺は浮かれた連中と一緒になって馬鹿騒ぎした。…後で警察沙汰にまで発展してしまったが。

すれ違う彼らを見て当時の苦い記憶を思い出してしまった俺は、かき消すようにかぶりを振って帰路を急いだ。

1/9/2024, 1:15:31 PM

【三日月】

自分がまだ幼い頃、母の送迎で弟と保育園に通っていた。その途中、とある家電店の前を通るのだが、弟はいつもその看板の大きなロゴマークを指さし、
「ネコちゃん」
と言う。今はほとんど見かけなくなったが、にっこり笑った太陽のマーク。そう、コジマ電気のロゴだ。
「あれはネコちゃんじゃないよ」
そういうやり取りをいつもしていた。

ある日の夜、空を見上げた弟が指をさし、
「あ、ネコちゃん」
と言う。見ると、雲ひとつ無い夜空に綺麗な星と三日月が浮かんでいる。
もしかして、三日月の形が猫を連想させるのだろうか。「不思議の国のアリス」に登場するチェシャ猫は、確かににっかり笑った三日月形の口が印象的だ。
きっとそうなんだろうなと、当時の自分は納得した。

今でも三日月を見ると当時のやり取りを思い出し、少し可笑しくなる。

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