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12/13/2023, 3:00:17 AM

お題「心と心」
タイトル「いと」

雨采 ミツジ
R5/2023/12/13

演奏と歌。

君の好きなもの。

歌、ダンス、舞台、運動、他にもたくさん。

俺の好きなもの。

でも、俺の1番は君。

君の1番は何かな。やっぱり歌かな。
ひっそりと、けれども、すごく楽しそうに歌ってた。


君が楽しく歌えるように、守りたかったんだ。
でも、君は歌わなくなってしまった。

君の声を最後に聞いたのはいつだっけ。

気が付かなかったけれど、俺に守られるのは嫌だったんだろうな。

俺に向けてじゃなくてもいいから、君がまた楽しく歌えますように。



きっとこれは罰なんだ。

あなたが1番なのに、あなた以外も大切だと思ってしまったから。

大切なのに、裏切ってしまったから。

僕だけ助けられてしまったから。

でも、全部手放してしまうことはできなくて、縋ってしまう。

あなたも、みんなも、笑っていてくれたらいいな。

僕のことが嫌いでも。
僕がそこにはいられなくても。
僕がそこには立てなくても。




どうか、幸せでありますように。

12/1/2023, 7:50:12 AM

お題「泣かないで」
タイトル「謝る言葉はいらない」

雨采 ミツジ
R5/2023/12/1

人々はこいつを俺の「兄」だと言った。
俺自身も、意識を持った時、いや、ずっと前からこいつが「兄」だと知っていた。
俺はこいつの「弟」として作られたから。

どれだけ経った頃か覚えていないが、「兄」を模したものが作られた。
「兄」は「弟」が増えたと喜び、俺も兄になったのかと楽しそうだった。
「兄」と2人の日々が終わったことに少し寂しさを感じたのは、何があっても教えてやらない。
「弟」が増えても、「兄」は特段変わらなかったから、言わなくていいんだ。

いつだってちょっとした呟きでも拾って、叶えようとする。
「兄」にとっては特別が増えただけで、どっちを優先するとか、どっちの方が愛おしいとか、そんなものはなかったらしい。



「なあ、行くなよ。行かなくていいだろ」

どれだけ訴えても「兄」は頷いてくれない。

「分かってるだろ。あいつはお前を傷つけるだけだって、行っても傷つくだけだって」

それでも「兄」は微笑んで、俺を抱きしめた。

11/30/2023, 3:51:50 AM

お題「冬のはじまり」
タイトル「始まりのとき」

雨采 ミツジ
R5/2023/11/30

箱の中には僕が知っている大体のものがあって、ないことに気が付く前になかったものも持ってこられる。

持ってくるのは、大体同じ人。
持ってくる日に特に規則性はなくて、連続のときもあれば、ずいぶん間が空いたときもあった。

その日もいつもと同じ人で、たしか、連続で来ていた3日目だった。

「『冬』ってどんなものだろう」

ふと気になって尋ねてみたら、板を落としてしまって慌てていたから、申し訳ないなと後から思ったことを覚えている。

それからその人が来る頻度が増えて、言葉を交わすようになった。

「『冬』は様々なものが移り変わる中で、とても寒くなるとき」

今思い出した。

「きっと今が『冬』なんだね。とても寒くて冷たい。ぽかぽかしてたのが消えちゃった。『冬』の次は『春』で暖かくなるんだっけ。そしたら君も起きるよね」

くっついたら暖かくなるけれど、春が来ないことにはきっと過ごしにくいから、春が来るまで待ってるね。

11/29/2023, 3:05:41 AM

お題「終わらせないで」
タイトル「鐘は鳴らない」

雨采 ミツジ
R5/2023/11/29

「これで終わりだね」

授業の終わりを告げる時、先生が決まって言う言葉。

先生の授業は短かったり長かったり、毎回いつ終わるか分からないものだから、この言葉を聞くと、みんな肩の力が抜けるようになっていた。

今日だってそうだった。
いつもの言葉を聞くと、自然と安心してしまった。

けれども、同時に苦しくなる。
わがままだって、叶わないことだって、分かっていても、心が「嫌だ」と訴える。

今の自分ではもう聞き取りづらいだろうけれど、なんて言葉で始まった授業は、いつも通りの言葉で、いつも通り終わってしまった。

誰もが叶わない永遠を望んでいることは分かっていただろうに、先生はいつも通り終わらせてしまった。

取り残された僕らに言い聞かせるように、誰もが望まなかった言葉だけが、壊れてしまった機械によって繰り返される。



「これで終わりだね」「これで終わりだね」「これで終わりだね」

機械音声は、今日も無情に繰り返されている。

11/27/2023, 1:01:14 PM

お題「愛情」
タイトル「尽きない思い」

雨采 ミツジ
R5/2023/11/27

懐かしい、僕があの子を蔑ろにしてしまう前の夢を見た。

大事だからこそ、遠ざけたくて、そうしてあの子を傷つけて、失って、「普通」に生きる道も作ってあげられたはずのあの子を、こちら側に踏み込ませてしまった。

けれども、あの子は僕を恨むどころか、僕の役に立とうとして1人で生き延びて、1人で戦った。

千の後悔でも、万の地獄でも足りない罪だ。

あの子も含めて、みんな揃って学び舎から子供たちが巣立ったのがつい先日。

そして、あの子とあいつの祝言が今日。

まさか、僕の知らないところであいつといい仲になってるなんて思わなかったけれど、僕のためにしか生きてこなかったあの子が、僕じゃない相手に幸せを見つけてくれた。

ああ、涙なんて見せられないな。
やっぱり、最後まで、かっこよくて尊敬される兄でいたい。

「おめでとう、世界で1番綺麗だよ。流石僕の最愛の妹」

どうかこれからも、いや、もっとたくさんの、幸せな愛に囲まれますように。

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