お題「泣かないで」
タイトル「謝る言葉はいらない」
雨采 ミツジ
R5/2023/12/1
人々はこいつを俺の「兄」だと言った。
俺自身も、意識を持った時、いや、ずっと前からこいつが「兄」だと知っていた。
俺はこいつの「弟」として作られたから。
どれだけ経った頃か覚えていないが、「兄」を模したものが作られた。
「兄」は「弟」が増えたと喜び、俺も兄になったのかと楽しそうだった。
「兄」と2人の日々が終わったことに少し寂しさを感じたのは、何があっても教えてやらない。
「弟」が増えても、「兄」は特段変わらなかったから、言わなくていいんだ。
いつだってちょっとした呟きでも拾って、叶えようとする。
「兄」にとっては特別が増えただけで、どっちを優先するとか、どっちの方が愛おしいとか、そんなものはなかったらしい。
「なあ、行くなよ。行かなくていいだろ」
どれだけ訴えても「兄」は頷いてくれない。
「分かってるだろ。あいつはお前を傷つけるだけだって、行っても傷つくだけだって」
それでも「兄」は微笑んで、俺を抱きしめた。
12/1/2023, 7:50:12 AM