11/26/2023, 11:54:58 PM
お題「微熱」
タイトル「生まれた日」
雨采 ミツジ
R5/2023/11/27
お前のような何でも叶う者に、恵まれた者に、そんなこと言われても不快なだけだ!
八つ当たりだった。
後から知った。
彼女は、親を知らない。
母は産まれた直後、本当にすぐに死別し、父は、彼女の存在を知りながらも、血も繋がらない別の子供を優先して世界を旅した挙句に死んだという。
彼女は静かに話した。
悲しくはないのです。
母は確かに私を愛してくれたことを知っています。
ずっと前から何度も名を呼んで、最期に抱きしめてくれたことを知っています。
父は己の正義を貫いて、彼を守り導きました。
誇らしく思います。
叶わぬ願いなど、誰にでも、いくらでもあります。
ただ、それでも、ただ1度でも、それが最後でもよかったのです。
母がくれた名を呼んでほしかった。
抱きしめてほしかった。
ただの、わがままです。
何もできなかった。言えなかった。
あの日微かに感じた熱は、今日も僕を焦がしている。