《過ぎ去った日々》
──あの日々は...もう戻ってこない。
私は葬式を終え、涙で赤くなった目を濡れたタオルで拭いた。
なのに目が乾くことはなく絶えず溢れだしてくる。
私の夫と娘は殺された。
ふざけている。
あいつはずっと笑っていた。
幸せそうに。
殺人鬼の顔をしていなかった。
悪意なんてなさそうに優しく笑っていた。
「......なんでなのよ...。」
私の幸せを奪っておいてなんで幸せなのよ。
思わず声に出た。
私の幸せが。
家族が。
あんな奴に消されるなんて...
あの日々は過ぎ去ってしまった。
もう帰ってこない。
あの時見た炎は今まで見た炎の何よりも紅かった。
あの時の私達の家はとても暗く、広くて寂しかった
奴は殺人が私の心を癒すと言った。
なんで私の家族がお前の快楽の犠牲にならなければいけない。
───なのに。
「......死刑...じゃ...ない...?」
「初犯ですし精神異常者は死刑に出来ません。
すみませんね。」
嘘だ。
ふざけるな。
なんでなの?
あんな奴殺さなきゃいけないでしょ。
もう。
耐えられ..................ない。
私はあいつと違う所に行く。
家族がいる場所に。
首に硬くしなやかな感触がある。
私は台に上り縄に命を委ねる。
『お母さん!』
そう聞こえた気がする。
今私の身体は燃え、灰と化しているだろう。
でも私は今でも家族と楽しんでいる。
過ぎ去った日々は取り返せた。
喜びの舞。
あぁ。
これが......
本当の事なら良かったのに。
《月夜》
三日月の真夜中。
断末魔のような金切り声が聞こえた。
────青い館は一夜にして赤く染まっていた。
運良く私は生き延びたようだ。
お父さんもお母さんも死んでしまった。
私はベットに蹲って震えることしか出来なかった。
私は都会にいる探偵に話を聞きに行った。
犯人を見つけたい事よりもあの館から逃げ出したかった。
「なるほど。それでここに来たのですか。」
探偵はコーヒーを飲みながら私の話を聞いていた。
私が何か言う度に考えている素振りを見せていた。
「現場に行きましょう。何かあるかもしれない。」
探偵が言った。
私は行きたくなかったが頷くことしか出来なかった
私たちはあの館に向かった。
言葉には表せない惨状。
既に見たはずなのに喉も目も熱くなった。
昨日のことを思い出してしまう。
三日月の夜に襲われたのは家族が私を除いて殺される事を暗示していたのかもしれない。
私は汚れていないベットで休ませてもらった。
捜索は終わり。
成果はほぼ無かった。
探偵が言った。
「今度は貴方を狙いに来るかもしれない。
護衛をつけましょう。」
私は断った。
名案を思いついたから。
新月の夜。
私は家のベットで寝ていた。
ドアの外から足音が聞こえる。
ドアノブを引く音が聞こえる。
気配を感じる位置まで来た。
私はナイフを取り出し刺そうとしたが止められた。
奴はそのまままの勢いで私の心臓を刺した。
胸に温かいものを感じる。
意識が朦朧とする中、声を振り絞って言った。
「何故...ばれた。
何故......お前がここにいる...!」
私は血の着いたナイフを抜き笑って見せた。
「貴方の演技は筒抜けなのよ。
さようなら。 探偵さん。」
ナイフを捨て、ふと空を見た。
「あら?雲に隠れてただけで今日は満月だったのね」
人を殺した私に人生を送る資格はあるだろうか。
でも、もしあるのなら私は家族も分を精一杯生きたい。
独りでも自分の生き方でゆったり生きていきたい。
知らなかった。
こんなに世界が輝いてるなんて。
知らなかった。
人を殺すことがこんなに楽しいなんて