《過ぎ去った日々》
──あの日々は...もう戻ってこない。
私は葬式を終え、涙で赤くなった目を濡れたタオルで拭いた。
なのに目が乾くことはなく絶えず溢れだしてくる。
私の夫と娘は殺された。
ふざけている。
あいつはずっと笑っていた。
幸せそうに。
殺人鬼の顔をしていなかった。
悪意なんてなさそうに優しく笑っていた。
「......なんでなのよ...。」
私の幸せを奪っておいてなんで幸せなのよ。
思わず声に出た。
私の幸せが。
家族が。
あんな奴に消されるなんて...
あの日々は過ぎ去ってしまった。
もう帰ってこない。
あの時見た炎は今まで見た炎の何よりも紅かった。
あの時の私達の家はとても暗く、広くて寂しかった
奴は殺人が私の心を癒すと言った。
なんで私の家族がお前の快楽の犠牲にならなければいけない。
───なのに。
「......死刑...じゃ...ない...?」
「初犯ですし精神異常者は死刑に出来ません。
すみませんね。」
嘘だ。
ふざけるな。
なんでなの?
あんな奴殺さなきゃいけないでしょ。
もう。
耐えられ..................ない。
私はあいつと違う所に行く。
家族がいる場所に。
首に硬くしなやかな感触がある。
私は台に上り縄に命を委ねる。
『お母さん!』
そう聞こえた気がする。
今私の身体は燃え、灰と化しているだろう。
でも私は今でも家族と楽しんでいる。
過ぎ去った日々は取り返せた。
喜びの舞。
あぁ。
これが......
本当の事なら良かったのに。
3/9/2024, 11:19:50 AM