ちりあくた

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9/29/2023, 11:44:21 AM

部屋は倒れた額縁で溢れ返っている。
お気に入りだった本棚は、
触ることもできずに埃被っていた。

おい、準備できてるか?

外から大きな声が聞こえる。
ゆっくりと扉を閉じて、
新しい額縁を懐に入れた。
毎度毎度、捨てきれずに残っている思い出。

記念撮影するって言ってただろ
早くしないと遅れるぞ

手にカメラをもって急かして来る。
いつも、残したくなってしまう、
いつかは伏せる集合写真。
またあの部屋で埃被る小さな額縁。
いつもこうだ。
後悔しかしない無責任な自分のままだ。
それなのに、言ってしまう。

かっこよく撮ってね
大切な記念写真なんだから

また涙を流すんだ。
                     『静寂に包まれた部屋』

9/25/2023, 12:10:51 PM

秋を告げる乾いた風は、
網戸越しに飾られた私を揺らした。

水があったほうが風流だ。

そう言って花瓶を濡らす主人は、もういない。
乾ききった瓶の底。
見られるために産まれた私は、
見るもの無くても残りつづける。

決して枯れることのない花。
光も水も愛情も要らずに咲く花。
景観に取り残された私が、
もし自由に変われたら。

大きく咲き誇る少しの時間も、
枯れていく長い時間も、
美しい一画にあれたのだろうか。

                     『窓から見える景色』

9/24/2023, 11:55:49 AM

お前は参加しないのか?

いつも以上に騒がしい酒場の一人席。
隣に座った男から声が掛かる。
頬に走る痛々しい傷痕。彼との付き合いも、もう長い。

いやだなぁ。あんな眩しいもの見せられちゃ、
余計細目になっちゃうよ。

逸らせようと下を向いたって、グラスに反射し、傷だらけの手の甲を照らす光が嫌でも目に入るだけ。
つぶってしまえば簡単に逃げていられる。小さな汚れも、大きな傷も。
それなのに。
逃げたくても、諦めたくても、
いつも閉じることができないまま背けつづけた。
綺麗な音。綺麗な匂い。綺麗な手触り。綺麗な音。
それだけあればきっと。

きっと見なくたって生きていける

                       『形の無いもの』