部屋は倒れた額縁で溢れ返っている。
お気に入りだった本棚は、
触ることもできずに埃被っていた。
おい、準備できてるか?
外から大きな声が聞こえる。
ゆっくりと扉を閉じて、
新しい額縁を懐に入れた。
毎度毎度、捨てきれずに残っている思い出。
記念撮影するって言ってただろ
早くしないと遅れるぞ
手にカメラをもって急かして来る。
いつも、残したくなってしまう、
いつかは伏せる集合写真。
またあの部屋で埃被る小さな額縁。
いつもこうだ。
後悔しかしない無責任な自分のままだ。
それなのに、言ってしまう。
かっこよく撮ってね
大切な記念写真なんだから
また涙を流すんだ。
『静寂に包まれた部屋』
秋を告げる乾いた風は、
網戸越しに飾られた私を揺らした。
水があったほうが風流だ。
そう言って花瓶を濡らす主人は、もういない。
乾ききった瓶の底。
見られるために産まれた私は、
見るもの無くても残りつづける。
決して枯れることのない花。
光も水も愛情も要らずに咲く花。
景観に取り残された私が、
もし自由に変われたら。
大きく咲き誇る少しの時間も、
枯れていく長い時間も、
美しい一画にあれたのだろうか。
『窓から見える景色』
お前は参加しないのか?
いつも以上に騒がしい酒場の一人席。
隣に座った男から声が掛かる。
頬に走る痛々しい傷痕。彼との付き合いも、もう長い。
いやだなぁ。あんな眩しいもの見せられちゃ、
余計細目になっちゃうよ。
逸らせようと下を向いたって、グラスに反射し、傷だらけの手の甲を照らす光が嫌でも目に入るだけ。
つぶってしまえば簡単に逃げていられる。小さな汚れも、大きな傷も。
それなのに。
逃げたくても、諦めたくても、
いつも閉じることができないまま背けつづけた。
綺麗な音。綺麗な匂い。綺麗な手触り。綺麗な音。
それだけあればきっと。
きっと見なくたって生きていける
『形の無いもの』