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8/19/2025, 3:01:40 PM


僕は、自分の笑顔が“あのこ”みたいに

ぱっと花が咲くような
あたたかな陽だまりに包まれるような
優しさに溢れるような

そんな笑顔じゃないことなんて、知っている。

知った気になっている。
いや、そうに違いないと信じて疑わない。

自分の顔なんて、鏡で見た暁には早々に目をつむってしまいたくなる。
ましてや笑みだなんて。とんでもない。


でも、ときどき手のひらの小さな手鏡に向かって。
姿見の中の自分に向かって。
ショッピングモールの隅っこの、大きな鏡に向かって。

自分は上手く、笑えているのだろうか。

だなんてなぞなぞをしながら、
どこか、果てしなく広い心のすみっこで、
“上手く笑えていますように”と願い事をしながら
覗き込むけれど。

いつだってぎこちなさを感じる笑みがそこにはあって。

ふい。と目を逸らしてしまうんだ。


不思議なんだ。

いつからかなんて考えたことはなかった。
気がついたら、心の中には既にもやがあったような気はするけれど。


ああ、でも。
きっと原因は僕なんだ。
だって、いつだってそうだったもの。
僕がぐるぐると考え込んでしまうせいで、気がついた時にはもやはちょっとずつ大きくなっていって。

黒く、黒く、黒く
暗く、暗く、暗く
どんようり、とまとわりつくように


僕を呑み込んでいく。



僕がいるのは真っ暗闇。
先の見えない、足元だって覚束ない。
光の一本だって跳ね返って来やしない。


“あのこ”が言った。
この日は、お父さんに会いに行く日なんだ。と
“あのこ”が言った。
今日、お父さんとご飯を食べに行くのだ。と
“あのこ”が言った。

【一緒】だね。うちも、両親が離婚しているんだ。と




一緒。区別のないこと。同一。
一緒?
いっしょ。


誰が【一緒】だって?

いつだって“あのこ”の言葉の後に考えてた。
おんなじ、【一緒】の事を。

いいな。

何度だって。

いいな。

いいな。いいな。いいな。いいな。いいな。いいな。いいな。いいな。いいな。いいな。いいないいないいないいないいナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナ




僕の父は、小学生最後の夏に病でタヒんだ。
難病で、きっと苦しいから。と延命措置はされなかった。
裕福ではなかったけれど、ヒトナミに恵まれた、しあわせな家庭だった。

大好きだった。



だから。
どうしようもなく。
想いが。
溢れて。


でも、口を開いたが最後、聞くも耐えないおぞましい言葉を紡いでしまいそうで。恐ろしくてたまらなくなって。
きゅっと口を噤んだのはいつだったかな。

なんて。




ああ、そうだ。そうだった。

心に巣食うこの暗闇が、この先晴れる事は無いのだろうな。
でも、もし。もしも、
こんなに醜いこの場所を。
【一緒】にあいしてくれる物好きがいたならば、
少しはこの場所を好きになれるだろうか。

少しは笑顔が上手くなるかな。だなんて。
考えてみたりして、ね。

9/26/2024, 1:29:48 AM

ずっと、見てみたかった。
あの窓の外に広がる世界を。
ずっと、行ってみたかった。
あの窓の、外側に。

すぐそこにあるのに、伸ばした手は届かなくて。
いつも、ずっとずっと遠いところにあって。

憧れていた。

あの日1度だけ見た。
あの蒼に。

9/23/2024, 1:50:07 PM

ひとりになりたかった。
暗い公園。街頭はひとつしかなくて、私のいるところには届かない。なんだかそれがスポットライト見たいで、その光が私に向く事は無いのだろうとぼんやりと眺めながら、自嘲気味に笑って顔を伏せた。
何も考えなくないのに。次々に溢れてくる自分を責め立てる言葉は、胸の中でぐるぐると廻って黒いシミを作っていく。

「ハニー」

___声が聞こえた気がする。愛しいヒトの声。暖かい声。甘い、蜂蜜のような。
顔を上げると視界いっぱいに赤が広がる。
「え」
「え、じゃないよ!ハニー!何度も声を掛けたのに、気づいて貰えないなんて俺ちゃんもう泣いちゃう!嘘、実はそんなに声掛けてないよ。3回くらい。どうしたの、こんな時間にこんなところでひとり。心配したよ。」
僕を正面から優しく抱き寄せながら額にキスを落とす。あまりにもあたたかくて、じわりと瞳に涙が浮かんでしまう。

泣き出す僕に戸惑っている彼の背に腕を回して、強く、つよく。抱きしめた。離さないで。

不安定な足場で互いに抱きしめ合う光景は、きっと可笑しくて。奇妙に映るだろうけれど。