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僕は、自分の笑顔が“あのこ”みたいに

ぱっと花が咲くような
あたたかな陽だまりに包まれるような
優しさに溢れるような

そんな笑顔じゃないことなんて、知っている。

知った気になっている。
いや、そうに違いないと信じて疑わない。

自分の顔なんて、鏡で見た暁には早々に目をつむってしまいたくなる。
ましてや笑みだなんて。とんでもない。


でも、ときどき手のひらの小さな手鏡に向かって。
姿見の中の自分に向かって。
ショッピングモールの隅っこの、大きな鏡に向かって。

自分は上手く、笑えているのだろうか。

だなんてなぞなぞをしながら、
どこか、果てしなく広い心のすみっこで、
“上手く笑えていますように”と願い事をしながら
覗き込むけれど。

いつだってぎこちなさを感じる笑みがそこにはあって。

ふい。と目を逸らしてしまうんだ。


不思議なんだ。

いつからかなんて考えたことはなかった。
気がついたら、心の中には既にもやがあったような気はするけれど。


ああ、でも。
きっと原因は僕なんだ。
だって、いつだってそうだったもの。
僕がぐるぐると考え込んでしまうせいで、気がついた時にはもやはちょっとずつ大きくなっていって。

黒く、黒く、黒く
暗く、暗く、暗く
どんようり、とまとわりつくように


僕を呑み込んでいく。



僕がいるのは真っ暗闇。
先の見えない、足元だって覚束ない。
光の一本だって跳ね返って来やしない。


“あのこ”が言った。
この日は、お父さんに会いに行く日なんだ。と
“あのこ”が言った。
今日、お父さんとご飯を食べに行くのだ。と
“あのこ”が言った。

【一緒】だね。うちも、両親が離婚しているんだ。と




一緒。区別のないこと。同一。
一緒?
いっしょ。


誰が【一緒】だって?

いつだって“あのこ”の言葉の後に考えてた。
おんなじ、【一緒】の事を。

いいな。

何度だって。

いいな。

いいな。いいな。いいな。いいな。いいな。いいな。いいな。いいな。いいな。いいな。いいないいないいないいないいナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナイイナ




僕の父は、小学生最後の夏に病でタヒんだ。
難病で、きっと苦しいから。と延命措置はされなかった。
裕福ではなかったけれど、ヒトナミに恵まれた、しあわせな家庭だった。

大好きだった。



だから。
どうしようもなく。
想いが。
溢れて。


でも、口を開いたが最後、聞くも耐えないおぞましい言葉を紡いでしまいそうで。恐ろしくてたまらなくなって。
きゅっと口を噤んだのはいつだったかな。

なんて。




ああ、そうだ。そうだった。

心に巣食うこの暗闇が、この先晴れる事は無いのだろうな。
でも、もし。もしも、
こんなに醜いこの場所を。
【一緒】にあいしてくれる物好きがいたならば、
少しはこの場所を好きになれるだろうか。

少しは笑顔が上手くなるかな。だなんて。
考えてみたりして、ね。

8/19/2025, 3:01:40 PM